研究課題/領域番号 |
18K13694
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤井 宏之 北海道大学, 工学研究院, 助教 (00632580)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光学特性値 / ふく射場の干渉機構 / 生体の大域・局所構造 / 干渉散乱理論 / ふく射輸送方程式 |
研究実績の概要 |
本研究では、生体組織を高密度かつ網目構造を有した高分子溶液として捉え、光干渉散乱理論に基づいて、生体組織における光散乱特性の理論値を導出すること、そして、生体組織の構造特性に起因した光の干渉機構を解明することを目的としている。
平成30年度では、まず、従来の単分散のコロイド水溶液における干渉散乱理論を多分散に拡張することを試みた。ここで、Cartignyらによって構築された干渉散乱理論を適用し、静的構造因子にはPercus-Yevickの解析解を用いた。また、粒径分布や粒子径などは、生体や農産物の模擬試料として広く用いられているイントラリピッド水溶液に関する計測データを用いた。体積分率が2%程度より低い場合、独立散乱理論と干渉散乱理論による散乱係数は同じとなり、それより大きい場合では干渉効果によって、干渉散乱理論の結果の方が値が小さくなった。この結果は、先行研究による単分散シリカ溶液の結果と同じ傾向であることから、多分散の効果は、定量的に寄与することが考えられた。 次に、イントラリポス溶液を用いて、粒径分布や光計測を行う準備を進めた。粒径分布は北海道大学工学研究院マテリアル分析・構造解析共用ユニットMASAOUにて光計測した。計測結果より、粒径分布はGauss分布の形をしていることが分かったが、計測原理上、高い体積分率では測定できず、今後は別の手法で測定することになった。 最後に、散乱係数を測定するため、ふく射輸送方程式に基づいた逆解析アルゴリズムを構築した。均一無限媒体における、ふく射輸送方程式の解析解と拡散近似した境界条件を用いて、半無限媒体における、ふく射輸送方程式の近似解を構築し、光伝播モデルとした。この近似が成立する光源ー検出点間距離を、ふく射輸送方程式の数値計算と比較することで評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、分子動力学シミュレーションを行い、様々な溶液における構造因子を取得する計画であった。しかし、構造因子がPercus-Yevickの解析解の場合で、どこまで実験値を再現できるのか検証することが最初にすべきことと考え、方針を変更した。そのため、平成31年度、平成32年度で実施する計画だった内容を今年度に実施した。粒径分布の測定は、今後課題であるものの、干渉散乱理論の多分散系への拡張、ふく射輸送方程式に基づいた逆解析アルゴリズムの構築を達成したため、今回の自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、イントラリポス溶液における光計測を行い、ふく射輸送方程式に基づいた逆解析アルゴリズムを用いて、散乱係数を算出する。現在のアルゴリズムを、散乱係数と異方性因子を分離して推定できるように改良する。光計測では、換算散乱係数から散乱係数と異方性因子が分離可能となる光源ー検出点間距離などの測定条件を探索する。光計測では、溶液中でも光源ー検出点を適切に設定できるようなホルダーを作成する予定である。 また、体積分率が高い場合におけるイントラリポス溶液の粒径分布や静的構造因子を計測していく。分子動力学シミュレーションによる静的構造因子計算についても進め、まずは、ソフトコアポテンシャルにおける計算コードを改良し、Percus-Yevick解析解と比較することで妥当性を検証する。また、多分散における静的構造因子も計算し、平成30年度で構築した近似手法が妥当かどうか、検証する。検証後、バネビーズモデルなど、高分子系に移行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度では、大規模計算用ワークステーションの新規購入と現在所有しているワークステーションのメモリ増設のための費用を計上していた。性能のよいメモリに加えて、計算速度向上のためにCPUも追加で購入した。そのため、予定していた費用よりも大きくなり、大規模計算用ワークステーションを購入することができず、差額が生じた。2019年度では、国際会議RAD-19(ギリシア)とCMBE(仙台)で成果を発表するための旅費を計上することは決定している。また、イントラリポス溶液の粒子径分布の計測装置の使用費用にも充てる予定である。
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