アモルファス構造における熱伝導現象の解明と制御に向けて,結晶材料内の固有振動モード間の相互作用を評価する手法を開発し,一般的に用いられる平衡状態を仮定する緩和時間近似を検証した.シミュレーションには,分子同士の相互作用によって生じる分子の軌跡の時間発展を解く方法である分子動力学法,および結晶格子内の固有振動モードを求めることが可能である格子動力学法を用いた.これらの手法により,結晶内に存在する振動モードのうちの一つを励起させ,その緩和過程を評価することで緩和時間を求めた.また,この操作を結晶内に存在するすべての振動モードに対して行った.この結果,単一励起した振動モードのエネルギーの緩和過程は,概ね指数的に減衰していくことが分かった.また,この手法によって計算した緩和時間は,平衡状態を仮定して緩和時間を求める先行研究の結果と概ね一致したが,数割の差が生まれることが明らかになった.特に,励起したフォノンモードのエネルギーが大きいほどわずかながら平衡状態における緩和時間に比べて小さくなる傾向があること,光学モードを有する結晶については周波数が大きい振動モードの緩和時間がより小さくなる傾向があることがわかった,以上の結果から,極度に非平衡性が強い系においては緩和時間近似に修正を加える必要があることがわかった.また本研究により開発した手法は,レーザー加熱などのより非平衡性の強い場合の熱伝導現象の解析に利用可能であることがわかった.
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