研究課題/領域番号 |
18K13699
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上野 藍 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (50647211)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 金属ー絶縁体相転移 / 近接場効果 / 熱スイッチ |
研究実績の概要 |
本研究の最終目的は,遷移金属酸化物の金属-絶縁体相転移時の物性変化により,近接場効果の発現を制御することで,電力不要で熱移動量を制御可能なシートタイプのパッシブな熱スイッチを創出することである. 近接場効果とは物質表面サブミクロン領域に発生する光の染み出しであり,その熱輸送量は黒体放射を超える大きな熱輸送量を可能とし,誘電率に起因する光学定数(屈折率n, 消衰係数k)に依存する.また,遷移金属酸化物では転移温度付近を境に金属-絶縁体の転移が起こり,n, kがダイナミックに変化することが知られている.本研究で提案するデバイスでは,遷移金属酸化物の金属-絶縁体相転移時の物性変化およびサブミクロン領域で発現する近接場効果を用いることで,パッシブとアクティブ制御の双方の課題を克服する. 特に,2018年度は,以下の内容を実施した. ・遷移金属酸化物の近接場における理論的検証 近接場熱輸送量の計算と最適材料の選定を中心に行った.これらは,温度依存性をもつ遷移金属酸化物の近接場界面熱輸送特性はどうなっているのか?という学術的な問いへの取り組みである.近接場効果に影響する物性値に対し顕著な温度依存性を有する遷移金属酸化物を対象にした熱輸送制御の研究事例は無い.さらに,本研究では実デバイス応用を考えた場合,定量的な評価が容易ではない界面での接触熱抵抗も含めて評価し,サブミクロン領域での熱輸送特性を効率的に利用したデバイス応用に繋げる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年7月~10月まで産休育休を取得しており,一部,研究計画の変更が生じている. 2018年度では,当初,実験も含め温度依存性をもつ遷移金属酸化物の近接場界面熱輸送特性を明らかにする予定であったが,上述の通り,理論計算および最適材料の選定を中心に行った. 具体的には,本研究での学術的な問いを大きく分けると以下の3つとなっている.①温度依存性をもつ遷移金属酸化物の近接場界面熱輸送特性はどうなっているのか?,②転移点付近の過渡現象のスイッチング特性は何で決まるのか?また制御できるのか?,③格子振動,電子スピンとSPPなど複合領域では何が起きているのか?である. このうち,①,②について,2018年度に検討している.①については,実験的に検証する内容も含まれており,こちらは2019年度も引き続き行う予定である.②については,宇宙用ラジエータとして実績のある遷移金属酸化物であるが,熱スイッチ適用のための重要課題として,金属-絶縁体相転移点付近の機構が未解明であるため,効率的な制御が困難となる.本研究では,本質的なブレイクスルーをもたらすため,転移点付近の過渡現象の熱輸送制御に関わる物理を明らかにし,機能的熱スイッチの設計指針を探っている.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度も引き続き,上述した学術的な問いの①~③を中心に研究を遂行していく予定である.具体的な今後の研究内容としては, 【項目①:遷移金属酸化物による近接場効果の実証】としては,近接場効果が顕著となるナノスケール領域でのギャップ制御および評価手法の確立を行う.申請者はこれまでに,高度な3次元構造MEMSデバイスを用いて近接場効果の評価に取り組んできており,これらの知見を応用し,ナノギャップ平行平板の伝熱特性を検証するために赤外透過窓付マイクロチャンバーおよびMEMS評価デバイスを新たに自作し,遷移金属酸化物の温度変化に伴う近接場効果および接触熱抵抗を実験的に解明する. 次に,【項目②:遷移金属酸化物の近接場における理論的検証】では実験値との比較および最適材料の選定を行う.まず,遷移金属酸化物の光学特性の温度依存性を利用し,近接場での熱輸送量を理論計算より見積る.さらに,一般的に光定数は文献値や解析解から導出されることが多いが,本研究で使用する遷移金属酸化物では光学定数の温度依存性があり,解析解から正確な値を導出することは適切ではない.これらの課題に対しても,エリプソメトリーにより光学特性を実測する. さらに,【項目③:遷移金属酸化物の相転移過渡現象における基本特性の解明】では,界面熱輸送に寄与する相転移付近の各種熱物性変化を計測し,未解明であった相転移過渡現象を明らかにする. 具体的な測定手法としては,DSC法により比熱,周期加熱法により熱拡散率および熱伝導率,そして,カロリメトリー法から放射率を研究室所有の装置を利用して測定する.これら一連の研究により,理論計算,実験による実証からデバイス設計への指針を得ることが可能となり,ニーズとシーズをつなぐ包括的な研究の基礎として,実用化につながる継続発展的な研究としていきたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は産休育休期間があり,理論計算を中心に研究を遂行していたため,次年度の使用額が生じている.2019年度は実験も行う予定であり,2018年度の繰越金の使途は2018度に予定していた実験物品購入に充てる予定である.
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