研究課題/領域番号 |
18K13701
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
栗山 怜子 京都大学, 工学研究科, 助教 (70781780)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 微粒子操作 / エバネッセント光 / 固液界面 / 熱流動場 / 光圧 |
研究実績の概要 |
本研究はエバネッセントフォトンを利用した界面近傍領域における微粒子操作技術の確立に向けて,粒子周囲の熱流動場を計測・解析することにより,粒子と光と熱流動が相互作用する系の体系的な理解を行うことを目的とする.エバネッセント場で捕捉・輸送される粒子(群)の運動状態とその周囲の温度場を同時に計測するための蛍光観察システムの構築を行い,熱対流・熱泳動が粒子操作に与える影響について実験的に評価する.従来研究で得られている光圧に関する知見と,本研究で得られる熱流動場に関する知見を統合することで,エバネッセント場中の粒子の運動を定式化し,実流動場において高精度な粒子操作を実現するための定量的な指針を示す.これらの目的を達成するために本年度実施した具体的内容を以下に述べる. (1)壁面近傍における粒子運動や温度場を計測するための全反射蛍光顕微鏡システムを構築し,その妥当性を検証した.プリズムを用いた光学系を設計・製作し,可視レーザ光を励起光としてガラス・溶液界面にエバネッセント波を発生させることに成功した.プリズム入射前のミラーの位置調整により簡便に全反射角を調整できることを確認すると共に,蛍光粒子像の解析に基づく染み込み深さの評価を行い,理論式と定性的に一致することを示した. (2)上記システムを用いて,レーザ誘起蛍光法に基づく流路内壁面近傍における温度分布計測を実施した.ペルチェ素子を用いた温度制御兼プリズム保持ステージを作製し,蛍光色素であるスルホローダミンBの蛍光強度と壁面近傍温度の相関を取得した.また校正結果に基づき,壁面近傍温度の二次元分布を取得した. (3)流路内で熱泳動現象を発生させる前段階として,温度場のシミュレーションを行った.流路底面を構成するガラスに敷設された薄膜電極への通電加熱を例にとり,熱泳動を発生させるために必要な通電量や最適な電極パターンの見積もりを行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,壁面近傍観察のベースとなる可視光用の光学システムの構築および妥当性の評価を実施し,温度に依存して蛍光強度が変化する色素を利用して界面近傍温度分布計測法の開発を行った.前者の成果については2018年度第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウムにて,後者の成果については日本機械学会関西支部 関西学生会2018年度学生員卒業研究発表講演会にて発表を行っている.また,流路内で熱泳動現象を発生する際の温度場の形成に関して数値シミュレーションを行い,実験的に熱泳動を発生させて影響・効果を見積もるための準備を行った.本年度得られた成果は,光と熱流動場が粒子運動に与える影響について実験データを収集・解析するための足掛かりとなるものであり,次年度の研究計画の円滑な遂行に向けて,おおむね順調な進展が得られたと考える.なお,当初平成30年度の目標の1つとしていた「近赤外レーザ光を光源とする粒子操作用エバネッセント光照射システムの構築」については,本年度構築した可視光用のシステムに統合する形で次年度に実施することとした.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,本年度得られた成果に基づき,(1)近赤外レーザ光を用いた粒子操作用エバネッセント光照射システムの構築,(2)エバネッセント光を利用した粒子の捕捉や輸送の実現,(3)熱流動場が粒子運動に与える影響についてデータの収集・解析に注力する.更に最終年度には,(1)-(3)で得られた知見を整理することにより粒子に働く光圧,流体力,熱対流,熱泳動の影響を定量的に評価し粒子運動の定式化を試みるとともに,光の作用との重ね合わせによる新たな輸送方法や集積化パターンを提案する.次年度の研究計画を遂行する上での留意点・具体的方法を以下に記す. (1)近赤外レーザ光を光源とする粒子操作用のエバネッセント光照射システムを構築する.この際,本年度構築した可視光用のシステムの一部を利用しながら両者を統合する形で進め,最終的に粒子操作と観察を同時に実施可能な光学系を作製する. (2)上記システムを用いて,エバネッセント光により生じる定常波や進行波を利用した粒子の捕捉や輸送,およびその観察を行う.実験条件(レーザ出力や反射光の位相,粒子の数密度,流路形状など)を変更しながら粒子運動に関する実験データを収集し,従来研究で既に得られている知見と照合する. (3)粒子操作・温度計測システムを用いて,各実験条件における温度場と粒子運動の計測を行い,熱流動場が粒子運動に与える影響についてデータの収集・解析・整理を行う.計測した温度分布から粒子が受ける流体抵抗や流路内の熱対流や熱泳動の影響を見積もり,粒子運動の可視化結果と比較を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
上記の通り,当初は平成30年度に実施予定であった「近赤外レーザ光を光源とする粒子操作用エバネッセント光照射システムの構築」について,平成30年度に構築した可視光用のシステムに統合する形で次年度に実施することとした.そのため,光学システムの構築に関連する費用(ミラー,フィルター,対物レンズ,ステージ等の光学部品に充てる費用)は次年度に使用する予定である.翌年度分として請求した助成金については,当初の計画通り,実験に使用する物品(蛍光粒子や薬品,光学部品等),国内・国際学会参加のための旅費・参加費として使用する計画である.
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