令和2年度には、前年度までに開発を行った小型高繰り返し型衝撃波管装置の検証および当該装置を用いた高温化学反応の高感度計測実験を行った。前年度までの装置検証の結果、本装置を用いた過渡吸収分光法では300nm以下の紫外波長領域において優れた性能を有することが分かった。令和2年度はこの性能を活かし、代表的な芳香族化合物であるトルエンおよびその熱分解生成物を対象とし、過渡吸収分光法により吸収スペクトルの過渡挙動を計測した。その結果、本手法では典型的な芳香族化合物やラジカルを素反応レベルで追跡することに十分な性能を有していることが明らかとなった。さらに、前年度開発した、本装置とレーザー誘起蛍光法を組み合わせた実験手法により、芳香族化合物の高感度検出を試みた。その結果、高温反応の初期においては芳香族化合物の蛍光を検出することができた。しかし実験を重ねるにつれて蛍光信号へのコンタミネーションが増加することが明らかになった。これは実験の繰り返しにより、排気できずに装置内に残った反応生成物が蓄積したことによるものであった。対策として、排気時間の延長や頻繁な装置洗浄を行うことで、本手法においても芳香族化合物の反応追跡が可能となった。 研究期間全体を通しては、無隔膜式衝撃波管と小型高繰返し型衝撃波管を用いて衝撃波加熱された試料ガスの高感度・広帯域過渡吸収分光による高温反応計測法を確立した。この新規手法では本研究で対象とした化合物以外にも多くの化合物やラジカルの高感度検出が可能となり、今後の高温反応の速度論的研究の幅を広げるものである。
|