研究課題/領域番号 |
18K13711
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
戸森 央貴 山形大学, 大学院理工学研究科, 助教 (30783881)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 人工筋肉 / 空気圧 / 熱可塑性エラストマ |
研究実績の概要 |
前年度までの研究で人工筋肉の構成要素のひとつである繊維部分を改良し、故障個所をゴム部分に限定することができた。そこで、本年度は人工筋肉の構成要素であるゴム被膜に修復能力を付加することを目指した。本研究では天然ゴムに代わり、加熱により可逆的に流動性を示す熱可塑性エラストマに着目し、特にゴムとして良好な特性を示すSEPSを用いた。 始めに短冊状のサンプルを作製し、人工筋肉の膨張と同程度の引張をサンプルに対して繰り返し与える耐久試験を実施した。次に、一定回数の引張毎に熱処理を行い同様の試験を実施した。実験の結果、熱処理なしの場合サンプルの寿命は平均20400回であり、熱処理を行うことで31800回に向上した。この時の破壊の様子を光干渉断層計やマイクロスコープで直接観察することはできなかったものの、耐久試験を続けたサンプルを引張試験機で調べると真応力が上昇していることが確認できた。このことから、繰返しの引張によってエラストマの分子鎖の配向が進んでいるのではないかと推測した。一方で熱処理を加えると真応力が低下することから、熱処理が分子鎖の配向を緩和し、エラストマに柔軟性を取り戻させていると考えている。 続いて、エラストマにカーボンブラックを配合し、マイクロ波で発熱する機能を付加した。非接触で加熱できるため可塑性を得たエラストマに不要な変形を与えるリスクを低減でき、内部から発熱するためエラストマ全体がムラなく加熱される効果を期待した。本材料で作製したサンプルで同様の試験を行った結果、マイクロ波での加熱に成功し、寿命も同様に向上した。 また、サンプルでの試験結果を受けて、熱可塑性エラストマを用いた人工筋肉の作製にも着手した。作成プロセスとしてホットプレス機やオーブンを用いた成型プロセスの提案と、トルエンに溶かしてのディップ成型プロセスの2通りを提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は人工筋肉のゴム被膜に熱可塑性エラストマを用いることを提案し、熱処理によって寿命が改善することを明らかにできた。ただし、エラストマの破壊の進展を直接観察することはできず、引張試験による応力値から破壊原因を推測した。 一方でカーボンブラックを配合しての試験は予想より順調に進み、マイクロ波によって小さな傷だけでなく数ミリレベルの切傷が塞がる場面もあった。そのため、研究の進捗によっては外傷による破壊にも効果が期待できるのではないかと考えている。 人工筋肉への加工では、ディップ成型で作製した人工筋肉は空気チャンバーの密閉性が高いが、肉厚の制御が難しく、有機溶媒を用いるためドラフトチャンバーが必須となる。熱による加工は寸法の制御が比較的容易であり、成型してから冷却までを短時間で行えるものの、まだ完成度が十分に高くない。どちらのプロセスも一長一短であり、人工筋肉として成型してからの耐久試験はこれからの課題である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の課題として、熱可塑性エラストマを人工筋肉に応用するための成型プロセス確立を目指す。今後の方針として、熱可塑性エラストマの特徴を活かせる熱による成型方法を重点的に模索する。人工筋肉として一定の完成度が見られてから、耐久試験も併せて実施し、熱による修復方法の効果を調査する。人工筋肉として成型することで、短冊状のサンプルでは生じなかった修復プロセス上の問題が見つかることが予想される。これに対しては成型したエラストマチューブに取り付ける他のパーツの改良も必要になると考えている。
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