研究課題/領域番号 |
18K13737
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺尾 悠 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (00777823)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電気機器 / 超電導モータ / バルク超電導体 |
研究実績の概要 |
今年度の研究においては、まず積層超電導体を搭載予定のモータ界磁部分をバルク超電導体で置き換えた場合の埋込永久磁石型モータ(IPM)について有限要素法による電磁設計を行ない、モータのトルク特性や損失等に関する考察を行なった。また、実験準備を進めるため希土類系超電導線材及び、超電導体を実際に搭載して回転させるモータの調達を行なった。本研究成果によりモータ構造の違いにおける電磁特性を明らかにし、国内外で合計4件(招待講演1件、国際学会1件、国内学会2件)の研究発表を行い、さらに査読付の海外ジャーナル論文を1本出版した。 まず電磁設計に関しては、3種類の回転子構造で電磁設計及び特性の比較を行なった。回転子構造は現用の電気自動車に用いられている構造を参考にしている。バルク超電導体配置としては、オーソドックスな横型配置、V字型配置、三角型配置としている。 これらの構造に関して、バルク超電導体内の着磁強度をパラメータとして変化させた場合のトルク特性、モータ損失、さらにトルク発生時における界磁の貢献度を調べるため、トルクを界磁体積で割った値γ[kNm/m^3]を求めて比較を行なった。また既存の永久磁石を用いた場合との比較も行なうため、バルク超電導体部分へ永久磁石を用いた場合のモータの電磁設計も行い、同様に特性を算出した。その結果、V字型構造を採用した場合が最もトルク特性が高く、γの値も永久磁石型のV字構造と比較して90%以上向上した。 電磁設計を行なう一方で、希土類系高温超電導線材並びに、実験用のモータを調達し、回転子部分にバルク超電導体を搭載して、液体窒素中にモータを浸した状態で回転させることにも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、積層線材の前に、本材料よりも高い電流密度を確保することが可能なバルク超電導体を用いて、埋込永久磁石型モータ(IPM)の電磁設計を行なっている。これは積層超電導体全体を一つの超電導体の塊としてみなした場合と位置づけることが出来、まず本構造にて超電導界磁をIPM構造に適用した場合の基礎特性を考察することが目的である。 まず電磁設計に関して、ダンプやクレーン等の大型重機に求められる低速・高トルクのモータへの適用を前提として、3種類の回転子構造で電磁設計及び特性の比較を行なった。バルク超電導体配置としては、オーソドックスな横型配置、V字型配置、三角型配置としている。現用の大型ダンプに用いられている駆動用モータを参考にし、モータ直径は1.0m、回転数1900rpmと設定した。また、超電導体の冷却温度は65-77 Kと液体窒素の使用を前提とした冷却温度とした。 これらの構造に関して、バルク超電導体内の着磁強度をパラメータとして変化させた場合のトルク特性、モータ損失、さらにトルク発生時における界磁の貢献度を調べるため、トルクを界磁体積で割った値γ[kNm/m^3]を求めて比較を行なった結果、V字型のバルク超電導体配置を回転子に採用した場合が最もトルク特性が高く、永久磁石を使用した場合よりも90%以上γの値が高くなることが示された。 電磁設計を行なう一方で、本研究にて提案するモータの原理実験を行なうため、実験用モータを調達し、バルク超電導体を搭載して液体窒素内で回転させることにも成功した。さらに次年度の積層超電導体によるモータ界磁を実現するため、希土類系超電導線材の調達も行なっている。 以上によりモータ回転子構造の違いにおける電磁特性を明らかにし、国内外で合計4件(招待講演1件、国際学会1件、国内学会2件)の研究発表を行い、さらに査読付の海外ジャーナル論文を1本出版した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の電磁特性においては、V字型の回転子構造を持つIPMを採用した場合が最も高いトルク特性が高いことが示された。しかし、IPMの特長である二種類のトルク(マグネットトルク及びリラクタンストルク)に分解して考察した場合、発生トルクに対するマグネットトルクの割合が9割以上を占めていることが分かった。すなわち、リラクタンストルクを有効に活用できる余地がまだ残されていると考えられる。よって今後は更にこの構造をベースとして最適設計等を行なっていくことで、更に高いトルク特性を持つ超電導IPM構造を考察していく予定である。また、バルク超電導体(または積層超電導体)を永久磁石のように着磁せず、磁気遮蔽材として用いた場合のモータ特性についても考察していくことを考えている。 前年度の結果を踏まえて、今年度はバルク超電導体を積層させた超電導線材に変更した場合に関する考察を、有限要素法解析及び実験の両面から進めていく予定である。特に、前年度に購入した希土類系高温超電導線材を積層させた構造に関しては、モータに搭載する前に、積層超電導体のみによる着磁実験や特性解析を行い、捕捉磁界の磁束密度分布や最大磁束密度を確認する予定である。 超電導部分に焦点を当てた実験を行なう一方、積層した超電導体モータに搭載した場合の基礎特性を調べるため、測定系の構築を行なっていく必要がある。前年度はバルク超電導体を搭載したモータを回転させることに成功したが、トルク特性や回転数等の定量的な数値を得るため、トルクメータや回転計等をはじめとした測定機器を調達してモータ特性を測定するためのテストベンチを構築していく予定である。
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