研究課題
これまで中電圧階級において使用される電流遮断器はSF6ガスを用いたガス遮断器が主流であったが、SF6ガスの温暖化係数は非常に大きく、環境への配慮から真空の拡散現象を利用した真空遮断器が注目されるようになった。しかし真空遮断器について、遮断電流消弧から遅れて発生する自復性の絶縁破壊、非持続性破壊放電(Non-Sustained Disruptive Discharge : NSDD)の発生が報告されている。本研究ではNSDDの発生要因として、電極間に生じる微小な金属粒子と電界電子放出電流に注目し、低気圧下において電界電子放出電流が増加し絶縁破壊に至るメカニズムについて新たな知見を得ることを目的とする。本年度の研究では、低気圧下における電界電子放出電流の挙動を、平行平板電極系を模擬したモデルで、PIC-MCC法を用いて検証した。その結果、電界電子放出電流はギャップ間に生じた正イオンによって増倍し、psオーダの時間で絶縁破壊に至ることが示された。これは次の増倍過程によるものである。①陰極から放出された電子がギャップ間で中性粒子と衝突し、正イオンを生じさせる。②陰極近傍に生じた正イオンが陰極表面の電界を強調する。③強調された電界によって電界電子放出電流に正のフィードバックがかかり、絶縁破壊に至る。また、電界電子放出電流の増倍は、印加電圧35kV、電界強化係数110-140程度で発生し、これは実際の電極系においても十分生じうるものであることが確認された。ここで示された増倍はギャップ間の気圧0.1Torr以上で生じ、実際の真空遮断器の運用圧力より高い。しかしながら、10μm程度の微小な金属粒子が蒸発することで、この条件は満たされることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究では、粒子起因の絶縁破壊現象が電界電子放出電流の増倍で説明できることを示した。シミュレーション結果より、絶縁破壊直前の正電荷分布及び電位分布から以下のような増倍サイクルが考えられる。①電界電子放出による電子と中性粒子が衝突し電離によって正電荷が生じる。②正電荷が陰極近傍に層を形成。電極間の電位が引き上げられ電極の表面電界が強まる。③電界が強まったことにより電界電子放出電流が増加。④①に戻る。このモデルにおいて、絶縁破壊を引き起こす粒子サイズを10μmオーダと見積もることができた。
今後は真空チャンバを用いた電界電子放出特性の測定によるシミュレーション結果の検証、真空に近い条件でのシミュレーションや、絶縁を回復する様子のシミュレーションを実施する予定である。
実験装置の整備が遅れ、必要測定装置の購入に至らなかったため。次年度実験装置の整備が完了次第使用予定である。
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IEEE TRANSACTIONS ON DIELECTRICS AND ELECTRICAL INSULATION
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