研究課題/領域番号 |
18K13741
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
横倉 勇希 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (70622364)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 力制御 / 加速度制御 / モーションコントロール / モータドライブ / 協働ロボット |
研究実績の概要 |
近年,様々な用途においてロボットの利用が急拡大しているものの,人間の生活空間においてロボットが物理的に直接接触して協働する作業は全く行えていない。その主たる原因は,モータ駆動システムの「逆駆動性の低さ」にあり,人間を殺傷してしまう事故が実際に起きていることにある。逆駆動性とはモータ駆動システムの外部からの動かしやすさを示し,現状のモータ駆動システムの逆駆動性を低下させている大きな要因として,減速機とオイルシールの摩擦,共振振動の抑制制御,位置制御や遅い力制御での駆動の3つが考えられ,高い逆駆動性とは程遠いモータ駆動システムの設計と制御がなされていることが挙げられる。 そこで本研究では,それら3つの問題の解決を目的として,先進的なモーションコントロール技術と最先端のモータドライブ技術を融合させ,ロボット各軸に搭載される減速機付きACサーボモータの逆駆動性を制御的および回路的に高める手法を開発している。方法①の摩擦トルク成分の能動的アシスト手法と方法②逆駆動性を低下させない共振振動の抑制手法を前年度に開発しており,方法①ではオイルシールの非線形摩擦をモデル化することなく補償可能なことを実機実験により確かめられた。方法②の1軸の負荷側加速度制御を前年度に提案しており,当該年度においては多軸ロボットへの展開について理論的検証を行っている。さらに,高逆駆動性の実現方法③として広帯域電流制御をベースにした広帯域力制御についても,当該年度では多軸ロボットへの適用を目指してハードウェアおよびソフトウェア開発を進行している。 本研究の最終目的は,人間の生活空間で使用可能な協働ロボットのための高逆駆動性モータ駆動システムを開発することにあり,目的が達成されると社会的インパクトは絶大で意義は大きい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高い逆駆動性を持たせるために,方法①の摩擦トルク成分の能動的アシスト手法の制御アルゴリズムの実機実証を行った。具体的には,モータ側の外乱オブザーバの次数を速度によって可変とする制御手法を提案している。モータ速度がゼロ近辺では非線形摩擦の影響を強く受けるため,1次以上の外乱オブザーバにより補償を行い,増速に伴って通常の0次外乱オブザーバに変更することで非線形摩擦補償と安定性の両立を図っている。 方法②の負荷側加速度制御においては前年度で既に実機検証と評価が完了しており,その制御理論のコンセプトは非常に強力で有用な手法であることが明らかとなった。ただし1軸のモータ駆動システムのみの検証に留まっており,当該年度においては多軸への拡張を検討した。また一方で新たな問題にも直面した。負荷側加速度制御を構成するためにはトルクセンサが必須であるが,市販品のトルクセンサは精度は高いものの,レイテンシ・ジッタ・周波数特性が悪く,負荷側加速度制御の性能が著しく悪化することが判明した。本件は事前にある程度予期されていたが,このままでは研究目的を完遂することは不可能と判断した。そこで当該年度では,レイテンシ・ジッタ・周波数特性を大幅に改善可能なねじれトルクセンサを独自開発し,既に実機試験を完了した。 方法③では,GaN(窒化ガリウム)トランジスタを用いたロボット用の多軸インバータを当該年度を含めて開発している。 上記より,新たな問題に遭遇したものの解決の見込みが立っており,進捗状況としてはおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況で述べた通り,方法①では外乱オブザーバの次数を能動的に切り替えて非線形摩擦補償と安定性の両立を図っているが,しかしながら,次数の切替によってリミットサイクルが発生する問題に直面しており,解決方法について目下検討しているところである。また,速度制御での実機実証試験は完了しているが,負荷側加速度制御との組み合わせについてはまだ完了していないため,今後の研究として推進していく。 方法②の負荷側加速度制御では1軸から多軸への拡張の検討を始めたが,多軸ロボットでの軸間干渉,所謂,慣性乗積の問題に対して今のところ無防備である。従って,軸間干渉があるシステムに対する負荷側加速度制御を検討し,逆駆動性のさらなる性能向上に繋げる。
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