様々なロボットが近年普及し用いられているが,人間の生活空間でロボットが物理的に何かの対象物体に対して直接接触し協働するような作業は全く行えていない現状がある。その主原因は,ロボットに搭載されているモータ駆動システムの「逆駆動性(バックドライバビリティ)の低さ」にあり,人間を傷つけてしまう事故が実際に起きていることにある。逆駆動性とはモータ駆動システムの外部からの動かしやすさを示し,現状のモータ駆動システムの逆駆動性を低下させている大きな要因として,減速機とオイルシールの摩擦,共振振動の抑制制御,位置制御や遅い力制御での駆動の3つが考えられ,高い逆駆動性とは程遠いモータ駆動システムの設計と制御がなされていることが挙げられる。 そこで本研究では,それら3つの問題の解決を目的として,先進的なモーションコントロール技術と最先端のモータドライブ技術を融合させ,ロボット各軸に搭載される減速機付きACサーボモータの逆駆動性を制御的および回路的に高める手法を開発している。逆駆動性の向上方法①の摩擦トルク成分の能動的アシスト手法と方法②逆駆動性を低下させない共振振動の抑制手法を開発しており,この方法①ではオイルシールの非線形摩擦をモデル化することなく補償可能なことを実機実験により明らかとした。逆駆動性の向上方法②の1軸の「負荷側加速度制御」を新たに提案しており,1軸から多軸ロボットへの展開について理論的検証を行っている。さらに,逆駆動性の向上方法③として広い制御帯域を持つ電流制御をベースにした広帯域力制御についても,本研究に適した専用ハードウェアおよび制御ソフトウェアを新規に開発した。 本研究の最終目的は,人間の生活空間で使用可能な協働ロボットのための高逆駆動性モータ駆動システムを開発することにあり,目的が達成されると社会的インパクトは絶大で意義は大きい。
|