研究課題
従来のPD計測手法は,計測装置のデジタル信号処理が未熟であったため,積分型や共振型といったアナログフィルタを用いて,波形を加工する必要があった。得られるPD波形は,本来のPD波形(いわゆる生波形)と検出回路を含めた計測システムの伝達関数の畳込みとなり,検出回路の周波数特性によって波形の特徴量(立上り/立下り時間など)は,凡そ決定される。PD生波形の立上り/立下り時間や周波数スペクトルは,放電空間における電子とイオンの挙動を反映している。したがって,従来のPD計測手法は放電空間の状態を反映している,これらの重要な情報を見落としていることになる。PD生波形を時系列に沿って全て記録し,PD波形が有する特徴量を用いて,スラッシュ窒素の絶縁性能に与える固体窒素の影響を考察した。スラッシュ窒素のPD波形は,液体窒素と同様の単一ピークを有するPD波形と合わせて,多数ピークを有する特徴的な波形が観測された。PD波形の経時変化に着目すれば,液体窒素では数10 nsのパルス幅を有するPD波形が比較的安定して観測されるのに対して,スラッシュ窒素は多数ピークを有する波形が混ざるだけでなく,パルス幅もその時々で異なっていた。また,スラッシュ窒素のPD波形の特徴量分布は,凡そ液体窒素と重なるが,立上りと立下り時間が長く,電荷量の大きい波形が観測されていることがわかった。ピークの数は,電子なだれ過程の回数を反映している。撹拌によって固体窒素が電極間へ偶発的に侵入すると,最初の電子なだれは固体窒素との衝突により停止し,帯電した固体窒素よる電界変歪が,次の電子なだれを発生すると予想される。立上りと立下り時間の増加は,電子なだれがより長い距離を進展したことを表しており,この仮定を支持している。
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Plasma and Fusion Research
巻: 15 ページ: 2401025~2401025
https://doi.org/10.1585/pfr.15.2401025