研究課題/領域番号 |
18K13750
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研究機関 | 奈良工業高等専門学校 |
研究代表者 |
池田 陽紀 奈良工業高等専門学校, 電気工学科, 講師 (20759849)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 垂直導体サージ特性 |
研究実績の概要 |
本研究では,風力発電タワーなどの垂直導体の雷サージ解析用等価回路モデル構築を目的として検討を進めてきた。平成30年度には,本補助金によって購入した計算機を用いて,有限差分時間領域法(FD-TD法)による数値電磁界解析により,垂直導体中を進行するサージの伝搬速度が,大地からの距離によって変化している可能性があることを明らかにした。この成果は,2019年1月に開催された誘電・絶縁材料,放電・プラズマ・パルスパワー,高電圧合同研究会にて報告した。しかし,この結果は,申請時に提唱した新型回路モデル(SVPモデル)のみでは表現できないことを示唆していた。 そして,令和1年度(平成31年度)には,申請時の案回路モデル(SVPモデル)をさらに発展させ,新たに明らかになった特性についても表現可能な新たな回路モデル(SVP-Aモデル)の提案を狙う方針に変更した。数値解析と並行して,屋内・外における縮小実験も実施し,サージ特性に大きく影響を与える要素について検討した。その中で,垂直導体におけるサージ伝搬速度は,上端から下端へと向かうの往路と,脚部で反射したのち上端へと戻る復路で偏りがあることが示された。導体上における複数回の往復反射を重ねる中で,速度の変化率も,一定でないことも分かった。またこの特性は,垂直導体の位置や形状のみならず,導体が配置される大地条件をも含む周波数依存性によるものであると考察しており,さらに詳細に検討する必要がある状況である。この結果についても,学会等で報告予定であるが,昨今のコロナ禍のため,詳細は未定である。 以上のように,本補助金により実現した詳細な検討により,新たな事実が明らかになったことから,当初の目的である理論的な垂直導体回路モデルの開発のためには,大地条件等を含めたより広い視野でサージ特性を分析し,垂直導体サージ特性に影響を与える要素を明らかにする必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究は,①垂直導体におけるサージ伝搬特性時間変化のメカニズム把握,②回路モデルへの落としこみ,③回路解析プログラムへの導入,の三段階で構成されている。平成30年度に実施した,①垂直導体におけるサージ伝搬特性時間変化のメカニズム把握の部分において明らかにされた新事実により,当初提案していたSVPモデルでは表現しきれない可能性が出てきた。そのため,平成31年度(令和1年度)には,第二段階である回路モデルへの落としこみを先送りとし,さらに詳細な電磁界解析と,屋内外における縮小実験を実施し,垂直導体上におけるサージ特性に影響を与える要素について検討した。その結果,さらに導体形状のみならず,大地条件などの導体を取り巻く環境も考慮する必要がある可能性が示され,回路モデル構築のためには,さらなる垂直導体上におけるサージ特性のメカニズムを明らかにすることが必要となった。そのため,旧データに基づくSVPモデルの信頼性は低く,その有用性は高くないと判断し,垂直導体サージ特性の把握と,新たな等価回路モデル(SVP-Aモデル)の提案に向けて,研究期間の延長を申請した。その結果として,現状では約1年の遅れと,研究方針の変更が必要となった。
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今後の研究の推進方策 |
垂直導体のサージ伝搬特性に関する検討において,本補助金により新たな成果を得ているが,当初の計画より約1年の時間的遅れが生じている。さらに,垂直導体のサージ伝搬特性を理論的に表現するという本研究の目的遂行のためには,新たに明らかになった特性を考慮した新回路モデル(SVP-Aモデル)の提案が必須である。そのため,研究期間を延長し,すでに明らかになったことをもとに,さらに詳細に垂直導体のサージ伝搬特性について検討する。これに伴い,本研究の方針(研究目標)を,「SVPモデルの構築と汎用回路解析プログラムへの導入」から,「垂直導体のサージ特性を完全再現できるSVP-Aモデルの提案」へと修正し,研究を続けることとする。 予算の面においては,当初予定していた高性能オシロスコープと同等程度のものを入手できたため,比較的余裕をもって屋外実験を実施することができた。本研究の方針修正に伴い,また既存の結果を分析し,その結果に応じて,数値解析の効率性向上のための数値電磁界解析ソフトの購入,あるいはスペクトラムアナライザ等の高精度測定装置の購入による実験系充実を判断する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた物品と同程度のものが入手できたこと,また本助成金による研究の成果から、当初の研究計画に遅れを生じていることから,次の段階で実施予定への未使用分が残っていることから,次年度使用額が生じている。 次年度使用額の使途については,数値解析用ソフトウェアまたは,スペクトラムアナライザ等の実験用機器のいずれかを検討中である。現状の研究結果をもとに精査し,7月末頃をめどに購入し,以降の研究に利用する計画である。
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