研究課題/領域番号 |
18K13751
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
岩田 晋弥 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 和泉センター, 研究員 (10642382)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 絶縁破壊 / 電気トリー / 分子動力学計算 / 量子化学計算 / 分子間相互作用 |
研究実績の概要 |
高分子材料の絶縁破壊現象の解明は、電気絶縁材料の長寿命化や信頼性の向上といった観点から重要である。過去の研究により、ポリエチレン内の添加剤(架橋剤分解残渣、紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤など)が、電気トリーや水トリーを中心とした絶縁劣化に対し、その進行を抑制する効果を有することが実験的に示されてきた。しかし、そのメカニズムには未解明な点が多く、分子サイズレベルでの現象の理解が必要である。本研究は、高分子材料の絶縁劣化の進行時における、添加剤や残留物の分子間相互作用の役割を明らかにし、従来以上に詳細な劣化抑制モデルを構築することを目的とする。平成30年度は、量子化学計算および分子動力学計算を活用し、架橋剤分解残渣、紫外線吸収剤などの特性を評価した。主な内容は以下のとおりである。[1]ポリエチレン架橋剤の熱分解残渣として、アセトフェノン、クミルアルコール、α-メチルスチレン、水が知られている。特に、材料内部での水分子の拡散や凝集は水トリーの形成などと密接に関わっている。分子動力学計算をはじめとした計算機シミュレーションにより、種々の架橋剤分解残渣分子が水分子の拡散に与える影響を評価した。その結果、アセトフェノンが水の拡散にもっとも寄与する可能性が高いことが明らかとなった(Comput. Mater. Sci. 163 (2019) 134-140)。[2]工業的に使用されている紫外線吸収剤分子に対し、吸収スペクトルの推定およびポリエチレン鎖中での凝集を評価し、過去に提唱されているモデルや実験結果の検証を行った(放電研究 61 (2018) 25-30)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、以下の理由により、おおむね順調に推移している。[1]スーパーコンピュータの利用により、シミュレーションに要する時間が短縮され、研究全体を円滑に進めることができている。[2]外部機関の研究者、技術者の協力を得ることによって、得られた計算結果に対して多面的な視点で考察を行うことが可能となっている。特に、架橋剤分解残渣などの具体的な事例に対し、生産現場での経験や知見を活かした考察を進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度までは、計算機シミュレーションを活用し、高分子材料内に存在する添加剤や残留物間に働く分子間相互作用が、絶縁劣化に与える影響について考察を進めてきた。今後は、絶縁破壊時における原子-原子の切断も考慮したモデルを検討する。具体的には、外力による分子の切断モデル(COGEF: Constrained Geometries simulating External Force)において、外部電場の与える影響の理論的な背景を明らかにする。また、絶縁材料内に蓄積された電荷(空間電荷)が形成する電場の大きさを実験的に見積もるため、空間電荷分布測定、電流積分電荷法による電荷蓄積特性評価などを実施する。
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