高分子材料は、電気絶縁材料として広く一般的に使用されており、機能性、信頼性、耐久性などの向上を目指し、絶縁劣化や絶縁破壊に関する研究が進められている。本研究は、高分子材料および添加剤を対象とし、分子間相互作用などに着目し、劣化や絶縁破壊の抑制に資する原理を解明することを目的としている。本年度は、劣化抑制材料として実験的な検証が進んでいる添加剤(紫外線吸収剤、架橋剤分解残渣など)に関して、量子化学計算および分子動力学計算を活用し、系の温度も考慮しながら、分子の凝集や拡散などの特性を評価した。主な内容は以下のとおりである。[1] 劣化抑制材料として提案されている紫外線吸収剤(アントラセンおよびテトラセン)に関して、量子化学計算と分子動力学計算を使用し、分子の凝集性を検証した。系の温度依存性も考慮して評価を行ったところ、室温においてはアントラセンがより劣化抑制効果(耐電気トリー性)を有することが示唆された(電気材料技術雑誌 28 (2019) 5-11)。 [2] 複数種類の添加剤の組み合わせ最適化を検討するため、紫外線吸収剤と架橋剤分解残渣の混合系を作成し、分子の凝集性を評価した。その結果、特定の組み合わせ時(2-(2-Hydroxy-5-methylphenyl)benzotriazoleとクミルアルコール)において、分子の凝集性が増し、劣化抑制の向上が期待できることが明らかとなった(Proceedings of the 21st International Symposium on High Voltage Engineering 2(2019) 12-21)。
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