研究課題
本研究の目的は,新たに開発した小角散乱X線撮像法は(USAXS)を用いて,従来の吸収コントラストX線撮像方式では困難であった初期乳癌の特徴である微小石灰化や腫瘤の形成のない段階での早期の微小腫瘍細胞などを描出することである.これまでに提案されているUSAXS法は,散乱が生じやすい微小石灰化等を描出できるものの,感度が不足しており,微小な腫瘍組織を描出するには至っていない.平成31年度は,被写体前に設置した非対称モノクロコリメータのb値を変え,入射ビームの平行性を最適化し,実用的なビーム強度と画質の探索を行った.ファントムにはポリスチレンや炭素の微小粒子を直径を変えていくつか準備し,本手法のコントラスト分解能・空間分解能・必要露光量等を見積もった.また,現在のスリットを用いたスライスビーム撮像方式を改良し,撮像時間を短縮可能なマルチスリットを設計した.さらに,本方式による小角散乱情報のより有効的な抽出法の開発のために,Takagi-Taupin方程式による結晶内のエネルギー伝搬シミュレータを開発し,結晶背面における理論的な強度プロファイルを得ることができた.この計算は,結晶の厚さが増すほど時間がかかるため,並列計算が高速なGPU: Graphics Processing Unitで動作させている.このシミュレータにより得られたデータは実際の実験データと非常に近く,理論的な空間分解能やコントラスト分解能を得ることができた.
2: おおむね順調に進展している
実施計画で示した項目の通りに研究が進んでいるため.
最終年度は,マルチスリットを製作し,撮影時間の大幅な短縮を行う.また,昨年度取得したシミュレーションデータを用いることにより,より小角散乱情報を有効に抽出できる手法を開発する.さらに,新しく高感度X線カメラを開発し,開発したマルチスリットとともに新しい実験装置を構築する.この装置により,様々な生体試料を撮影し,医学研究への有用性を示す.具体的には乳癌の1つである非浸潤性乳管癌の構造異常により生成される篩状パターンなどをこの手法で撮影し,石灰化が生じない段階で癌に対してコントラストが得られるが調査する.一方で,今年度はコロナウイルスによる実験施設の閉鎖等により,計画通りに実験が行えない場合が考えられる.その際は,前年度製作したシミュレータを積極的に活用し,Laue型結晶の厚さが結晶背面での空間強度分布にどのように作用するかuT=10以上まで調査する.また,屈折体による数値ファントムを撮影し,CTにおける空間分解能についても調査する.
次年度使用額は,若手研究における独立基盤形成支援(試行)による追加配分のため,次年度以降に使用する計画である.
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (5件)
Journal of Medical Imaging
巻: 7 ページ: 026001
Breast Cancer Research and Treatment
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