電力を安定的に供給するためには,電力ネットワーク内のそれぞれの発電機は発電する際に一定の周波数を持つ交流電力を同期させる必要がある.しかし,太陽光などの再生可能エネルギーが大量に導入された将来の大規模電力ネットワークでは,気象の影響を受けやすくなり,ネットワーク内の同期の安定性を定量的に評価することが難しくなる.本研究は,リーマン多様体上の最適化手法を用いて出力データから同期している大規模電力ネットワークシステムを同定する方法を開発することを目的としている.
これに対し,本年度の成果は以下の通りである. (1)同期している電力ネットワークシステムは連続時間グラフラプラシアンダイナミクスで 記述されると仮定した際に,ネットワーク構造が無向だとすると,対応する離散時間ダイナミクスの中に正定値対称行列が自然に現れる.本年度は,その正定値対称行列をリーマン多様体上の最適化法を用いて同定する方法を提案した.その際に,ダイナミクスを表現する行列の3つ組が属す積多様体に対して直交群の作用を定義し,そこから定義される商多様体の幾何学を詳しく解析した.また,数値実験によって提案法の有効性も確認している.また,データが逐次的に得られる場合に正定値対称行列をリアルタイムに同定する方法を提案した. (2)電力ネットワークシステムはグラフラプラシアンダイナミクスで近似できる.本年度は,行列データからグラフラプラシアンと密接に関係している非負行列の構築法を近接交互線形最小化法(PALM)を用いて提案している.PALMは最適化分野において比較的最近になって提案された手法であり,システム制御の問題への応用はこれが最初である.
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