研究課題/領域番号 |
18K13779
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
星野 健太 京都大学, 情報学研究科, 助教 (10737498)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 制御理論 / 確率システム / 非線形制御理論 / 最適輸送理論 |
研究実績の概要 |
本研究は,確率動的システムが持つ確率的な性質が確率分布に集約されていると考え,確率分布に注目した制御を行うことで,確率的な不確かさをより詳細に考慮した制御を実現することを目的としている.本課題では,そのような目的のもとで確率分布の最適制御問題と安定性解析の課題に取り組んでいる.本年度はこれらの課題について以下のような成果を得た. 確率分布の最適制御問題:本課題は動的システムに何らかの確率性が伴う場合に,その系の状態量の確率分布を制御することによって,確率的な不確かさを最大限に考慮した制御を行おうとするものである.本年度は離散時間系の確率分布を対象とした最適制御問題に取り組み,Wasserstein距離と呼ばれる確率分布間の距離をコストとする最適制御問題を扱った.本年度は,その最適制御問題に対して最適性の条件を示し,その条件が従来の最適制御理論の最小原理とよばれる結果の拡張となることを示した.また,この最適制御問題が正規化流とよばれる機械学習の手法と同じ問題を扱っていることを指摘し,機械学習の問題を制御問題として扱いうることを示した.なお,本成果を国際会議で発表し,SICE Young Authors Awardを受賞した. 確率システムの安定性解析:上記の最適制御問題に加えて,安定性も制御系の重要な性質の一つである.本課題は確率的に振る舞う動的システムの安定性について,確率的な性質をより詳細に考慮することで,その安定性の解析の高度化を図るものである.本年度の成果は主に二つあり,一つは安定性に関係する有界性の解析の結果が挙げられる.確率システムの状態量が確率1で所与の領域に留まる条件を与えた.また,もう一つは確率システムの有限時間安定性に関するものであり,有限時間安定なシステムの状態量が平衡点に到達する際の到達時間の確率分布の解析法を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題では,確率分布を陽に考慮した制御を実現することで,期待値やモーメントのみを考慮した制御よりもより詳細な制御が可能な制御手法を実現することを目的としている.この観点に基づいて,現在までの研究では確率分布の意味での最適制御問題や確率系の安定性解析の研究に取り組んだ.現在までの進捗状況は以下のようなものである. 確率分布の最適制御問題:確率分布の最適制御問題については,これまでの研究において,Wasserstein距離と呼ばれる確率分布の距離を最適制御問題のコストとする,離散時間系を対象とした問題を扱い,その最適性の条件を示した.この結果により,本課題で目標としていた確率分布の制御を行うための基礎的な枠組みを確立できた.さらに,連続時間系への拡張やより一般的なコストに対する制御問題についても着手済みであり,これらの課題を解決するための見通しが得られており,更なる進展が見込めると考えている.また,確率分布の最適制御問題に関しては,機械学習の問題と関係があることが判明したため,最適制御問題の結果を機械学習の問題へ応用することでも本課題の更なる発展が見込めると考えている. 確率システムの安定性解析:本課題では確率システムの安定性を対象とした課題を2つ扱っている.一つは安定な確率システムの確率分布の挙動を捉えるための解析法である.この課題については,安定なシステムの密度関数法に関する安定性条件や有界性条件に関する結果を得ている.また,もう一つの課題として,有限時間安定性については整定時間の確率分布の解析法を得ることができている.これらは課題の構想時に安定性解析について目標としていた結果であり,安定性解析についても一定の成果が得られていると言える. 以上のような成果が得られていることから現在までの進捗状況をおおむね順調に進展しているとした.
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今後の研究の推進方策 |
今後は確率分布の最適制御問題と安定性に関する課題について,次のような方策で研究を行うことを予定している. 確率分布の最適制御問題に関する研究:これまでの研究では,主に離散時間系を対象とした制御問題を扱っている.今後の研究では,これまでの成果を連続時間系に拡張することに取り組む.本年度取り組んだ制御問題を連続時間系へ拡張するための方策は得られており,まずこの課題に取り組む予定である.また,これまでの研究では限定されたコスト関数を対象とした最適制御問題を扱っていたが,対象とするコスト関数のクラスを拡張するための研究にも取り組む.この課題については,これまで取り組んできた問題とある種の確率最適制御問題が関連することがわかっており,その知見を取り入れることで,より一般的なコスト関数のもとで確率分布の最適制御問題を論じることが可能になると考えている.また,それらの課題とともに,確率分布の最適制御問題は統計や機械学習の問題と関連がある.今後の研究では上述のような課題に取り組んだ後で,応用として統計や機械学習の問題へ確率分布の最適制御問題の結果を応用することにも取り組む予定である. 確率安定性に関する研究:これまでの研究では,有界性に関する課題と有限時間安定性に関する課題に取り組んだ.有界性に関しては,その有界性を保証するための条件が得られている.有界性は実システムにおいて,系の状態量が禁止領域に侵入しないための条件として使うことができる.今後の研究では,開発した有界性の条件を実システムに応用し,その有用性を示すことに取り組む.また,有限時間安定性に関しては,これまでの成果によって平衡点への到達時間の確率分布を解析する手法が確立できている.今後の研究では,この成果を制御則の設計問題に応用し,制御則の評価に用いることで,有限時間安定性の解析手法の有用性を示すことに取り組む.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,新型コロナウィルスの流行により,予定していた出張ができなかったために残額が生じ,研究期間を延長したため,次年度使用額が生じている.研究の進捗としては当初予定していた課題に対して概ね順調な進展が得られているため,次年度使用額はその成果の発表のための論文投稿費用,英文校閲費用等に充てる予定である.また,研究の進捗次第では高度な計算機が必要になる可能性があり,その計算機の購入を検討している.
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