本課題は制御理論における確率的な制御問題について,確率的な側面を重視した解析や設計を実現するためのものである.具体的には,最適輸送理論などの知見を制御理論に取り入れることで,対象の確率分布を陽に考慮した制御の実現を目指している.本課題では,制御理論の問題のうち,主に(1)確率分布の最適制御問題と(2)安定性および安全性に関する制御問題について取り組んだ. 本年度に得られた結果は以下のようなものである.(1)の確率分布の最適制御問題については,これまでにWasserstein距離と呼ばれる確率分布の距離を用いて,制御系の確率分布の時間発展を考えたときに,ターゲットとなる確率分布とのWasserstein距離が小さくなるように確率分布を制御する問題を扱ってきた.本年度はこの問題で扱う制御対象のクラスを確率微分方程式で記述される連続時間確率系に拡張した.そして,この最適制御問題において,ポントリャーギンの最大原理に相当する結果を得た.この結果に基づいた最適制御の数値計算法の開発が期待される.(2)の安定性および安全性に関しては,以下の二つの結果を得た.まず,有限時間安定性と呼ばれる安定性を有するシステムの安定性解析に関する結果を得た.有限時間安定性を有するシステムは状態量が有限時間で平衡点に収束する.今回は確率微分方程式で記述されるシステムが有限時間安定性を有する場合に,平衡点への到達時間が確率的になることに着目し,その到達時間の解析手法を開発した.また,二点目の結果として有限時間安定性解析の結果が,近年注目を集めている安全制御と呼ばれる問題に適用できることがわかった.そして,確率的なシステムの安全性を保証するための制御の計算アルゴリズムを開発した.
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