研究課題/領域番号 |
18K13783
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岡田 達典 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (50793775)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 鉄カルコゲナイド超伝導 / 臨界電流 / 一軸ひずみ |
研究実績の概要 |
鉄カルコゲナイド超伝導薄膜における超伝導特性、および、それらに対する一軸ひずみ印加の影響を究明すべく、鉄セレンテルル薄膜における臨界電流密度の温度・磁場・角度依存性の詳細な測定を行った。幾つかのセレンーテルル組成試料に対する臨界電流密度依存性の評価から、磁束ピンニング機構としては、ランダムピンニングが支配的であると考察した。その原因としては、元素置換に伴う点状欠陥が主であると考えられる。 また、成膜時の中間層の変更による通電特性の向上を立案し、実際に通電特性の大幅な向上が確認された。これは十分な成膜条件最適化を行っていない試作膜に対する結果であり、今後、成膜条件を検証することで更なる特性向上も見込める。 共同研究先の成膜装置の不具合により、薄膜試料が得られない期間があったが、この期間中に簡便な装置で厚膜試料を作製できる手法を立案し、試作を行った。製作した厚膜試料において実際に超伝導転移を確認し、通電特性を評価した。今後、成膜条件を最適化することで、通電特性の向上が見込めるほか、これまでの薄膜作製法では中々アプローチできない方向性での研究展開も期待できる。 これらの薄膜試料に一軸ひずみを印加する手法として四点曲げ法および一軸引張法での検証を行ったが、接着ボンドの熱処理過程における特性劣化が見られたため、更なる検討が必要となる。検証過程にて比較試料として測定した銅酸化物コート線材において、超伝導特性の一軸ひずみ依存性の詳細を明らかにすることができ、これらの特性を説明可能な現象論モデルを構築した。このモデルは鉄カルコゲナイド超伝導体に対しても転用できると考えられる。 これらの成果の一部については既に学会にて報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
試料提供を受けている共同研究先の成膜装置に不具合が生じて成膜条件の再探索が必要となったため、実施年度の初期に薄膜試料を得られない期間が生じた。このため、当初計画していた薄膜試料の特性評価を十分に実施することができず、当初の研究計画からは遅延が生じた。 一方で、試料提供が再開された年度後半には、特性を向上させる手法を立案した。この手法により成膜したプロトタイプ試料に対する測定の結果、実際に既存手法よりも良好な通電特性を得ることができた。 また、提供試料が得られない時期に、研究室内で実施できる簡便な装置での厚膜試料製作を試みた。その結果、実際に厚膜試料の作製に成功した。試作した厚膜試料に対し、幾つかの超伝導特性の評価を行なった結果、良好な超伝導特性が確認できた。成膜条件の調整により更なる特性向上も期待でき、今後の研究展開の新たな指針が得られた。 上記の通り、当初の計画からは遅延が生じているものの、想定していなかった良好な成果も得られたことから、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況に記載の通り、2019年度に鉄カルコゲナイド薄膜の通電特性向上を可能とする手法を見出し、実際に特性向上を確認した。次年度には、この手法により特性向上させた手法に対して一軸ひずみの印加と、それによる超伝導特性の変化を測定・評価する。 また、厚膜試料についても、成膜条件の最適化を行うことで更なる特性向上を目指す他、応用に向けた試作品の作製を試みる。 一軸ひずみ特性の評価については、まずは比較的測定が容易な伸長ひずみ依存性の測定を試み、ひずみ印加による特性変化を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績の概要・現在までの達成度に記述の通り、試料提供元の成膜装置に不具合が生じ、年度前半において薄膜試料の提供を受けられなかった。また、試料提供が再開された年度後半においては、通電特性の測定に使用予定であった超伝導マグネットが不調となり、予定していた測定を遂行できなかったため、測定に必要な備品の購入は次年度に回した。また、これらの不測の事態に対応すべく当初の研究方針にはなかった厚膜試料の製作したが、今年度は試作段階であるため少ロットでの購入となった。 次年度はこれらの問題が解消されるものと期待しており、薄膜試料における測定および厚膜試料の合成に要する備品の購入に充てる。
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