小さな有効質量異方性や磁場に対してロバストな臨界電流特性を持ち、強磁場マグネット応用などが期待される鉄カルコゲナイド超伝導線材の磁場中通電特性・機械特性を調べた。19 Tまでの強磁場下にて、臨界電流の温度・磁場・角度依存性を詳細に調べた結果、フッ化カルシウムを中間層最表面に用いた試料では、酸化セリウムを用いた試料よりも良好な通電特性が得られた。また、B//ab近傍の角度で臨界電流が窪む特異な角度依存性や、ランダム分布した磁束ピン機構の場合に期待される磁場依存性が観測され、ナノ粒子を含むREBCOコート線材と類似した振る舞いが得られることを見出した。構築したモデル計算と付き合わせることで、この振る舞いが球状のランダムピンを仮定することで再現できることを確認した。 機械特性に関しては、±0.3%程度の面内一軸ひずみを印加した際に、圧縮歪みで超伝導転移温度が向上し、伸長ひずみで転移温度が低下する振る舞いを観測した。この傾向は、基板歪みを利用した面内ひずみで報告された振る舞いや、ピエゾ阻止を用いた微小ひずみ領域で観測された傾向と整合する。 また、蒸気拡散法を用いた鉄セレン厚膜に関しては、先行研究と同程度の質の試料を得ることには成功したが、テルルの導入による超伝導転移温度の向上は実現しておらず、合成条件の更なる追求が必要である。 以上、これまで得られた実験結果より、鉄カルコゲナイド超伝導テープ線材の作成には、REBCOコート線材で広く用いられている酸化セリウム最表面中間層よりもフッ化カルシウムを用いることで、より高い通電特性が得られることが分かった。また、線材に意図的に一軸圧縮ひずみを導入することができれば、ネックとなる超伝導転移温度の向上も見込め、今後の応用研究の1つの指針が得られた。
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