研究課題/領域番号 |
18K13785
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
宗田 伊理也 東京工業大学, 工学院, 助教 (90750018)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 遷移金属カルコゲナイド / 半導体 |
研究実績の概要 |
二硫化モリブデン薄膜のフッ化カルシウム基板上へのスパッタ堆積を成功させた。このことは、ラマン分光法によるスペクトルを解析し、二硫化モリブデンに固有の位置にピークが存在することで確認した。また、透過型電子顕微鏡を用いて断面が層状構造となっていることを観察することにより確認した。この薄膜において磁気力顕微鏡を用いて表面の磁気勾配を測定し、形状像と似た表面パターンを観測することに成功している。検証のため、非磁性カンチレバーを用いて同様の測定を実施したが、何も観測されなかった。このため、先に観測された表面パターンは試料表面と磁性体カンチレバーの間の磁気的な相互作用によるものの可能性が高い。今後は磁性体リファレンス試料を同じ手法で測定するなどして、本測定結果のさらなる検証を実施する予定である。 SiO2/Si基板上にスパッタ堆積した二硫化モリブデン薄膜において、磁化測定を実施した。堆積後に硫黄雰囲気とアルゴン雰囲気中で熱処理を施し、熱処理しなかった試料に比べ磁化が増大することを見出した。この要因を明らかにするために、X線光電子分光により組成比を分析したところ、熱処理により組成比が理想的な1:2 に近づくことを確認し、これが要因の一つであると結論付けた。さらに、磁性不純物が要因ではないことを検証するため、X線光電子分光により元素分析を実施し、強磁性の起源が二硫化モリブデン自体にあることを確認した。この結果を論文にまとめ、出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き、SiO2/Si基板上にスパッタ法により堆積した二硫化モリブデン層状薄膜の磁化測定を実施した。磁化測定を実施した試料は、スパッタ堆積後、熱処理をほどこさなかった試料、スパッタ堆積後、硫黄雰囲気中で熱処理した試料、スパッタ堆積後、アルゴン雰囲気中で熱処理した試料の三つである。 X線光電子分光法を用いた組成分析を実施した。二硫化モリブデン試料のモリブデンと硫黄の組成比は熱処理を施さなかった場合、低下していることが知られているが、熱処理を施した二つの試料では改善していることが分かった。 各試料の磁化測定の結果は、熱処理した二つの試料の方が、熱処理しなかった試料に比べ、磁化が大きいことが分かった。熱処理によるモリブデンと硫黄の組成比の改善が影響していると考えられる。特に、アルゴン雰囲気中で熱処理した試料においては、他グループによるCVD法で作製した二硫化モリブデン試料の磁化より大きい値を観測することに成功した。 観測された強磁性が磁性不純物によるものではないことを検証するため、X線光電子分光法による元素分析を実施した。560から880 eVまでのエネルギー領域のスペクトルを測定したところ、Ni, Co, Fe, Mn, Crに起源するピークは観測されず、磁性不純物によるものではないことを確認した。 以上のことから、本年度の研究はおおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
スパッタ堆積の二硫化モリブデン薄膜において観測された強磁性の起源を明らかにすることに重点を置く予定である。格子構造の解析を透過型電子顕微鏡観察およびX線回折により実施する。透過型電子顕微鏡観察においては、平面像から格子像を解析し、局所構造および粒状境界の構造の観察を試みる。また、磁気力顕微鏡測定を引き続き実施し、表面の磁気勾配を観測し、磁化測定および透過型電子顕微鏡像の結果と合わせて強磁性の起源を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
二次元層状物質の結晶構造を透過型顕微鏡測定、及び、X線回折を詳細に行うことで、精密に分析し、研究結果をより明確に主張するために、試料作製費用、及び、受託測定費用などの分析費用に充てたい。
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