遷移金属層状物質MoS2をスパッタ法により、SiO2付きのシリコン基板上に成膜し、層状構造を有する数ナノメートルオーダーの膜厚の薄膜成膜に成功した。スパッタ堆積法は、膜厚や結晶粒のサイズの制御性が良いため、ナノメートルオーダーの結晶粒の多結晶構造を保ちながらナノメートルオーダーの膜厚制御が可能であり、強磁性の起源と考えられる粒界・トポロジカル欠陥を多く含む薄膜作製に有利である。 実際に、超電導量子干渉計を用いて、スパッタ法により成膜した遷移金属層状物質MoS2薄膜の磁化測定を実施し、大きい飽和磁化を観測することに成功した。他グループの真空加熱熱蒸着や水熱合成による成膜・作製方法より大きい値が得られ、スパッタ法による成膜が、強磁性の発現にとって重要な要因を抑えた幸先の良い作製方法であることと認識した。 超伝導量子干渉計による磁化測定において、ナノメートルオーダーの膜厚の薄膜の磁化は膜厚が小さいために、厚さの厚い基板の反磁性の方が大きくなり、埋もれてしまう。反磁性の成分を見積もり、強磁性の非線形成分を抽出することで見積もることが可能だが、正確性に欠く。基板の厚さを薄いものを用いて、基板の反磁性をMoS2薄膜より小さくなるように工夫した。スパッタ成膜したMoS2の磁化が十分に大きい場合に、基板の反磁性に埋もれずに、ダイレクトに磁化を測定することに成功した。 超伝導量子干渉計により測定された磁化の磁場依存性が、MoS2薄膜のものであることを確認することは重要である。磁気抵抗の磁場依存性を測定することに成功し、飽和する時の磁場の大きさが、磁化の磁場依存性に近いものであったため、これらの現象がMoS2薄膜によるものであることの確度が高まった。
|