多結晶シリコンゲルマニウムスズ(SiGeSn)三元混晶における結晶粒界および重いSn原子による熱伝導率の低減を目指し、スズナノドット(Sn-ND)をテンプレートに用いた多結晶ゲルマニウムスズ(GeSn)および多結晶SiGeSnの熱電特性評価を行った。 これまで、多結晶GeSnおよび多結晶SiGeSnにおけるSn導入による熱伝導率低減を報告してきた。本年度は、熱電変換の変換効率や出力電力を左右する電気伝導率およびゼーベック係数に対するSn導入の影響を調査した。作製したundoped GeSn多結晶薄膜はGeの点欠陥に由来してp型の伝導型を示し、そのキャリア濃度および電気伝導率は表面のラフネスとして表れる結晶性に依存する一方でSnの影響は観測されなかった。ゼーベック係数も同様に、結晶性による変化が支配的でありSn導入の影響は見られていない。この結果は、GeとSnを混晶化することで電気伝導率、ゼーベック係数を悪化させることなく熱伝導率のみを低減可能であることを示している。 また、Sn導入による熱伝導率低減の原因を詳細に解明するために、多結晶SiGeSn試料に対して放射光施設におけるX線非弾性散乱(IXS)測定を用いたフォノン分散測定を行った。可視光レーザーと比較して波長が非常に短い放射光を用いることで、ブリルアンゾーンのΓ点から離れた領域までのフォノン分散を取得することに成功した。さらに、一般的に知られるフォノン分枝には該当しない新たなフォノン分散曲線を観測した。この新たなフォノン分散曲線は、近年SiGeなどの混晶において観測され、混晶化に伴って形成された局所構造に起因すると予想されている。我々はSn導入がこのフォノン分散を変調することを明らかにし、混晶化による局所構造の形成が熱伝導率低減すると示唆される重要な知見を得た。
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