研究課題
近年、低環境負荷の新しい熱電変換材料としてホイスラー合金Fe2VAlが注目され始めているが、従来の熱電変換材料と比較して熱伝導率が一桁程度高く、熱電変換材料の性能指標の一つである無次元性能指数(ZT)が実用化の目安とされるZT > 1を満たすまでには至っていない。本研究では、研究代表者が最近開発したFe2VAl単結晶薄膜の低温形成技術を高度化し、その熱電性能を実用化レベルまで高性能化することで、新型熱電変換材料への道を拓く。今年度は、これまで確立してきた化学量論組成Fe2VAl薄膜作製の経験を活かして、Fe2VAlよりも高いゼーベック係数が予測される熱電材料Fe2TiSiの作製に着手した。Fe2TiSiはバルクや薄膜の研究において作製が困難な材料であるため、理論計算によって高性能な熱電材料として期待されている反面、Fe2TiSiの物性を実験的に示した報告例はこれまでほとんど存在しなかった。低温分子線エピタキシー技術を用いて各元素の供給比を非化学量論的に調整することで、化学量論組成で単結晶のFe2TiSi薄膜を作製することに成功した。単結晶Fe2TiSi薄膜の300 Kでのゼーベック係数は101 uV/K、熱伝導率は5.6 W/(m・K)であることを明らかにした。これらは、熱電材料Fe2VAl単膜と比較しても有望であり、ホイスラー型熱電材料の新たな可能性を開拓するものである。この結果は、Journal of Applied Physics誌に掲載され[J. Appl. Phys. 127, 055106 (2020).]、元素置換によるFe2TiSiの熱電物性の制御についての論文を現在投稿中である。以上の研究成果は、Fe系ホイスラー合金の熱電応用への可能性を広げ、熱電変換素子の実現に向けた今後の研究の指針になるものである。
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Journal of Applied Physics
巻: 127 ページ: 055106~055106
doi.org/10.1063/1.5141949