2018年度には、バンドギャップが拡大するナノ結晶シリコン層の形成条件の検討を実施し、ボロンを拡散することで少数キャリアライフタイムの向上を試みたが、実際に得られた少数キャリアライフタイムの値は、層を形成しない場合に比べて大きく低下した。バンドギャップはナノ結晶シリコンのサイズが小さくなればそれだけ拡大する。シリコンの溶解を促進しすぎたため、ナノ結晶シリコンの孤立あるいはボロン拡散時の酸化によって、ナノ結晶シリコン層の電界が少数キャリア再結合防止に有効に機能しなかったと結論付け、2019年度は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察によって、形成された構造を確認しつつ、ナノ結晶シリコン層の形成条件を見直した。その結果、TEMによって約5nmのシリコンの格子パターンが明瞭に観察できる均一なナノ結晶シリコン層の形成に成功した。ケルビンプローブフォース顕微鏡、X線光電子分光、フォトルミネッセンス測定を用いバンド構造を明確にした。太陽電池の表面側に用い、太陽電池の高効率化に実績のある屈折率勾配型のナノ結晶シリコン層と今回の均一型の層のバンド構造を比較し、今回の構造が少数キャリア再結合防止に最適な急峻なバンド構造変化を有していることを明確化した。また、エリプソメトリー測定値を解析することで、空孔率を含む層の構成を解明した。光学解析からも今回形成した構造が均一であることが確認された。形成したナノ結晶シリコン層にボロンを拡散し、少数キャリアライフタイムを評価したところ、ナノ結晶シリコン層を形成していない場合に比べわずかではあるが向上が確認された。太陽電池については、その後工程でナノ結晶シリコン層がシリコン基板から剥離してしまうことが防げず特性の向上には至らなかったが、ボロン拡散前のバンド構造が再結合抑制に有望な構造であることから、ボロン拡散プロセスを改良することで特性向上が期待できると結論した。
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