研究課題/領域番号 |
18K13791
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
市川 修平 大阪大学, 工学研究科, 助教 (50803673)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 光電子分光 / 時間分解 / 表面再結合 |
研究実績の概要 |
本研究では、表面に敏感な紫外光電子分光測定において時間分解二光子光電子分光測定系を構築し、半導体の表面再結合速度の同定を目指している。
研究2年目にあたる本年は、ワイドギャップ半導体へ適用可能な測定系の拡張を試みた。測定系を検討する目的で、有機金属気相成長法によりInGaN/GaN多重量子井戸構造を成長し、InGaN量子井戸内に励起された電子の短寿命緩和過程を評価した。励起光源としてTi:Sappレーザー(パルス幅: ~100 fs、繰り返し周波数: 80 MHz) を用い、InGaN量子井戸のバンドギャップエネルギーよりも僅かに大きく、GaN障壁層のバンドギャップエネルギーよりも小さなエネルギーを持つ第二高調波波(波長400 nm, 3.10 eV)をポンプ光として利用した。さらに第二高調波と基本波の和周波により得られた第三高調波(波長266 nm, 4.65 eV)をプローブ光として用い、Mach-Zehnder干渉計により光路差を形成した後、それぞれのパルス光を試料表面に入射した。
上記試料の測定により得られた光電子強度の時間分解減衰曲線に対して、第二高調波と第三高調波の相互相関関数幅(175 fs)から、測定系として極めて高い時間分解能を実現できたことが分かった。光電子強度減衰曲線をフィットし、励起電子の緩和寿命を見積もった。フィッティング結果から、InGaN量子井戸中の結晶欠陥による非輻射キャリア再結合寿命として120 psが見積もられ、井戸幅が3倍に増加すると、非輻射寿命が40 ps程度にまで減少することが明らかになった。このことは、井戸幅増加に伴って新たに結晶欠陥が形成されたことを示唆する結果であると考えている。 以上のように、ワイドギャップ半導体であるInGaNにおける高速非輻射再結合寿命の評価に成功し、次年度以降の表面再結合寿命測定に向けて良好な結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
短パルスレーザーの第三高調波生成により、深紫外光を利用した時間分解二光子光電子分光測定系を構築した。また、この第三高調波をポンプ光として用いると同時に、従来の基本波・第二高調波をプローブ光として試料に併せて集光することで、ワイドギャップ半導体に対しても高い時間分解能を有する時間分解二光子光電子分光が可能であることを確認した。実際の測定により、InGaN/GaN量子井戸構造の井戸層を選択励起した測定を実現し、室温における40~120 ps程度のキャリア再結合寿命を得た。このキャリア再結合寿命は、結晶欠陥による非輻射再結合寿命を観測したものであると考えられ、同じく非輻射再結合である表面再結合の評価に対する今後の展望も含めて、研究は極めて順調に進行している。当初の研究計画に比べて遅れは生じていない。
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今後の研究の推進方策 |
研究二年目にあたる本年は、ワイドギャップ半導体であるInGaN系半導体試料を利用して、量子井戸内に励起されたキャリアの速い非輻射再結合寿命の同定に成功した。今後は、研究の最終ターゲットである、「ワイドギャップ半導体材料における表面再結合寿命」の実評価に向けて研究を推進する予定である。これまでの研究で、チタンサファイアレーザーの第三高調波生成により、ワイドギャップ半導体の測定を可能にしたが、波長変換効率の改善などの測定系の改善も併せて取り組んでいく予定である。次年度以降には、試料予備室内でのプラズマエッチングなど、試料表面の真空加工システムを立ち上げるなど、更なる実験系の拡張を行う予定である。
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