半導体光デバイスやパワーデバイスにおいて、キャリア再結合寿命の評価手法として、時間分解フォトルミネセンス法やマイクロ波光導電減衰法等が用いられているが、これらの評価手法による検出信号は試料深さ方向の影響を強く受けるため、表面再結合の影響を切り分けたキャリア寿命の測定は容易ではない。また、表面再結合は通常のバンド間遷移に比べて極めて速い非輻射再結合過程であるため、高い時間分解能を有する測定が必要となる。本研究では、表面に敏感な紫外光電子分光測定において、フェムト秒パルスレーザーをポンプ・プローブ光に用いることで時間分解二光子光電子分光測定系(Tr-2PPE)を構築し、半導体の表面再結合寿命の評価および表面再結合速度の同定を試みた。
まずGaAs(110)表面に対してTr-2PPE測定を行った。表面の大気暴露時間の増大に伴い、GaAs(110)表面での再結合寿命は5.1 nsから73 psにまで短寿命化することが明らかになった。適切な境界条件を設定したキャリアの拡散方程式を解くことで得られたキャリア濃度分布から表面再結合速度に換算すると、上記再結合寿命は10^5 cm/sから10^7 cm/s程度の表面再結合速度に相当し、電子の熱速度に匹敵するきわめて高速な表面再結合速度が同定された。
つづいて、有機金属気相成長法によりInGaN/GaN多重量子井戸構造を成長し、InGaN量子井戸内に励起された電子の短寿命緩和過程を評価した。In組成20%、井戸幅1.5 nmのInGaN量子井戸中の非輻射キャリア再結合寿命として120 psが見積もられ、ワイドバンドギャップ半導体に対しても本手法によるキャリア寿命計測が可能であることを明らかにした。本手法は、表面再結合寿命の同定に有用である一方で、表面再結合速度への換算の課題としてキャリア移動度の同定が必要であることも見出した。
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