研究課題/領域番号 |
18K13796
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
張 超亮 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (80807678)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スピン軌道トルク |
研究実績の概要 |
(1)高抵抗率W/CoFeB/MgOにおけるスピン軌道トルクの評価:スピン軌道トルク誘起磁化反転の反転電流を下げるため、高いスピンホール角を持つ材料が求められている。この研究で、スパッタリング法で高抵抗率のW/CoFeB/MgOのヘテロ構造を成膜し、ホール素子に加工した。その後、高調波測定法を用いて、それらの素子中のスピン軌道トルクを評価し、それのタングステンの膜厚依存性を調べた。その結果から、実効的なスピンホール角(-0.62)を求めた。この数値は現在タングステンにおけるスピン軌道トルクの最大値であり、タングステンの抵抗率を増加させることで、スピンホール角を高めることを示した。この知見で、今後スピン軌道トルク誘起磁化反転の反転効率を増加させることが期待されている。 (2)差分プレナーホール抵抗で面内磁気ドットにおけるスピン軌道トルク誘起磁化反転の測定とそれの磁化容易軸方向依存性の評価:面内磁化容易の磁気ナノドットにおけるスピン軌道トルク誘起磁化反転はns以下の高速無磁場動作を実現ができる。この磁化反転は磁気ドットの面内磁化容易軸方向に依存するため、磁化反転電流の磁化容易軸方向依存性を系統的に調べる必要がある。この研究で、面内容易軸を持つ磁気ドットにおけるスピン軌道トルクを高効率的に測定できる手法を提案し、それを用いて、Ta/W/CoFeB/MgOから加工したホール素子におけるスピン軌道トルク誘起磁化反転の磁化用軸方向依存性を調べた。その結果から、スピン軌道トルク誘起磁化反転の機構への理解を深めた。 以上の二つの成果はそれぞれ一流論文誌(Applied Physics Letters)に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)スピン軌道トルクの起源の解明と新規材料系の探索: スピン軌道トルクの起源を理解するには、戦略的な材料構成の展開が有効と考えられる。そのため、スピントルク測定手法の高調波測定と輸送測定などの異なる方法の測定系を立ち上げ、W/CoFeB/MgOにおけるスピントルクの評価を行った。また、タングステンの抵抗率や結晶構造を製膜条件で制御し、現時点タングステンにおけるスピン軌道トルクの発生効率の最高値が得られた。そして、スピン軌道トルクとタングステンの抵抗率や結晶構造との依存性を系統的に評価した。 (2)スピン軌道トルク誘起磁化反転機構の理解の推進: 面内磁化容易のW/CoFeB/MgOをホール素子に加工し、面内容易軸の方向をCoFeBの形状で調整した。そして、面内容易軸の素子におけるスピン軌道トルク誘起磁化反転を評価するための測定系を立ち上げ、反転電流と容易軸方向との依存性を系統的に評価した。 (3)スピン軌道トルク&スピン移行トルク誘起磁化反転の実証と反転機構の理解: 新しい反転機構を実証するため、タングステンの重金属チャネルを持つ三端子磁気トンネル接合素子を試作した。そして、立ち上げた測定系を用いて、磁気トンネル接合素子の面内と面直に同時に電流パルスを流し、磁気トンネル接合素子の強磁性金属の記録層にスピン軌道トルクとスピン移行トルクを同時に作用し、磁化反転を誘起させる実験を行った。これで、スピン軌道トルクとスピン軌道トルクを併用する磁気トンネル接合素子の動作を実証し、デバイス構造設計の指針を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
(1)スピン軌道トルク&スピン移行トルク誘起磁化反転:磁気トンネル接合素子における磁化反転を100 psレベルの高速領域まで評価するための測定系を立ち上げ、測定を行う。そして、磁化反転のエラーレート測定や時間分解測定のための測定系を立ち上げ、測定を行う。以上の測定で、スピン軌道トルク&スピン移行トルク誘起磁化反転の特性を評価する。また、マクロスピンシミュレーションとマイクロマグシミュレーションを行い、計算結果と測定結果を比較し、磁化反転の特性を理解する。その上、磁化反転効率を改善できる方法を調べる。 (2)三端子磁気トンネル接合素子の材料の改良:三端子MTJ素子を作製し、MTJの材料、膜厚、成膜条件などを調整し、情報の書き込みと読み出しの特性の依存性を系統的に調べる。 (3)スピン軌道トルク&スピン移行トルク誘起磁化反転機構の理解: 磁気トンネル接合素子のチャネルのサイズ、磁化容易軸とチャネルの角度などを変え、スピン軌道トルクとスピン移行トルクの大きさと相対角度の磁化反転への影響を系統的に調べる。その上、反転効率を向上するための構造と反転機構の理解を深める。 (4)スピン軌道トルクとスピン移行トルクの競合による発振: スピン軌道トルクとスピン移行トルクを用いた新たな発振素子の提案と実証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
該当年度の消耗品と修理代は予想はより少ないのため、次年度利用が発生。次年度の消耗品や修理代等に充当させる。
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