コンクリート構造物の塩害耐久性照査において、コンクリート中の塩分浸透予測はFickの拡散方程式を適用することが一般的とされている。しかし実環境下では、乾湿履歴に起因した水分移動の影響も存在しており、現状ではこれを拡散現象と見なし見かけの拡散係数にその影響を包含しているため、飛沫帯や海上大気乾燥が卓越する環境では、湿潤時の水分移動の影響により、現行の浸透予測では対応できない可能性がある。また、橋梁の劣化事例を整理すると、橋面の排水不良等に起因した桁受部や張出床版部等の水掛かり部近傍では、剥離、鉄筋露出等の変状が多数報告されており、局所的に水分供給を受けることで、コンクリート内部で湿度差が生じマクロセルを形成する可能性が示唆されている。 そこで研究代表者は、上記課題を踏まえた下記①~③について検討を行っている。 【検討項目】①コンクリート中の水分移動に伴う塩化物イオンの浸透特性の実験的検討、②水分移動を考慮した塩化物イオンの浸透モデルの構築、③コンクリート水掛かり部における水分移動特性および腐食特性の実験的検討 最終年度では、③の水掛かり部における水分移動特性の検討、ならびに同部位における鋼材の腐食特性について検討を実施した。本実験は、鉄筋を埋設したコンクリート供試体に局所的に水分を供給させることで、橋梁の水掛かり部を再現し、その周辺での鉄筋の自然電位の変化を調査した。その結果、水分供給箇所では著しく自然電位が低下する傾向が確認された他、給水と非給水部での水分の浸透状況が相対湿度にて最大20%の差があることから、このような環境の差異によりマクロセルを形成していることが示唆された。
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