研究課題/領域番号 |
18K13821
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
高井 俊和 九州工業大学, 大学院工学研究院, 助教 (00759433)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高力ボルト摩擦接合継手 / すべり / 塗膜厚 / 無機ジンクリッチペイント / すべり耐力 / 母板降伏 / ボルト再締結 / 支圧変形 |
研究実績の概要 |
平成30年度は,1度すべりが生じた高力ボルト摩擦接合継手の再すべり挙動の解明を課題として,(1)変動分布を考慮した損傷部分の塗膜の適切な測定方法の確立,(2)すべりが生じた高力ボルト継手の再すべり時のすべり耐力の低下要因の解明の検討を行った.(1)で扱うすべりによる塗膜はがれは,ばらつきを伴うため,そのばらつきを適切に考慮して把握する必要があり,予備検討として望ましい塗膜厚の測定方法を検討した.継手のすべり試験体を作成し,万能試験機ですべり実験を行いすべりによって損傷した無機ジンクリッチペイントの塗膜を得た.実験の前後でそれぞれ塗膜厚計を用い試験体表面の塗膜厚を多数回測定し,その変動に基づき統計的な視点から,実験前後それぞれで測定回数,測定部位などの望ましい測定条件を検討した.その結果,すべり前の塗膜に対して,信頼水準95%,許容誤差率5%で結果を得るには,11回程度測定し平均するのがよいことを示した.また,1か所を測定するよりも複数個所を測定して平均をとる方が結果の変動が少ないことを測定結果にもとづき示した.すべり後は塗膜損傷の程度により回数が異なり,ボルト孔近傍で19回程度,ボルト孔から離れた場所で17回程度の測定が必要であることを示した. (2)では次年度の高いすべり耐力が期待されるすべりが生じた継手の補修方法の検討に先立ち,すべり耐力への影響が考えられる要因のうちFEM解析で検討が可能な要因に着目してその影響の度合いを検討した.過大荷重を想定してすべり荷重の1.3倍まで載荷したときの1度目のすべり時の母板降伏の影響と,ボルト孔とボルト軸部の接触によるボルト孔近傍の支圧変形およびその除去作業時の過剰な切削の影響に着目してFEM解析で影響を評価した.その結果,両者の組み合わせでもすべり耐力の低下が最大で2%程度と小さいことを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に示した(1)の検討は計画に沿っておおむね順調に進行した.(2)も検討作業自体はおおむね順調に進行した.ただし,補修後のすべり耐力への1度目のすべり時の母板降伏の影響やボルト孔縁の支圧変形,その支圧変形の過剰な切削の影響が課題着手前に想定していたよりも小さいことが判明した.そのため,塗膜損傷の影響の割合が大きいと推定され,補修後のすべり耐力の評価,分析にあたって,FEM解析のすべり挙動と実挙動が整合している必要性がより高くなった.研究代表者のこれまでのFEM解析手法は静止摩擦のみをモデル化しており,すべり直後の荷重低下が再現されていない.すべり後の挙動をより詳細に分析するには,荷重低下の再現性の向上が必要と考え,実挙動により整合させるための解析手法の改良の追加検討に時間を要した.そのためやや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は,すべりが生じた継手に対して一定以上のすべり耐力が期待される補修法の検討を目的として,(3)部位別の塗膜損傷の補修後のすべり耐力への影響度の調査,(4)すべりにより接合面処理が損傷した高力ボルト継手のすべり耐力の高い補修法の開発を行う.(3)では,平成30年度の検討で塗膜損傷の補修後のすべり耐力への影響が大きいことが示唆されたため,損傷部位とすべり耐力への影響との関係をFEM解析により検討する.平成30年度に行った継手のすべり実験後の試験体の塗膜厚損傷状況を参考に損傷形状をパターン化し,損傷部位別の影響度を明らかにする.(4)ではすべりの発生により無機ジンクリッチペイントの塗膜が損傷した継手部をいったん解体し再接合するときの適切な補修方法を検討する.実構造を想定すると交換用の連結板は再製作により高いすべり耐力が期待される.しかし,母材側は現場での補修となるため,有機ジンクリッチペイントなど施工性も考慮した補修法が必要となる.補修部位のすべり耐力への影響度も考慮して補修法を選択し検討を進める.なお,本検討は平成30年度に使用した試験体も一部再活用して継手のすべり試験を行い補修効果を確認する.
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次年度使用額が生じた理由 |
すべりが生じた高力ボルト摩擦接合継手の再すべり時のすべり耐力の低下要因の検討で,再すべり時に与える1度目のすべり時の母板降伏の影響,ボルト孔とボルト軸部の接触によるボルト孔近傍の支圧変形およびその除去作業時の過剰な切削の影響が,検討着手前に想定したよりも少ないことが判明した.その結果,1度目のすべり時の塗膜損傷の影響が大きいと推測された.補修後のすべり耐力の評価にあたって,FEM解析のすべり挙動と実挙動が整合している必要性がより高くなった.FEM解析の整合性向上の検討に時間を要したため,実施できた実験が当初計画よりも若干少なく,次年度使用額が生じた.この額をFEM解析の整合性向上を検討した結果の確認のための実験に使用する予定である.
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