本研究課題は,水害リスクの適切な将来予測に資するために,人間社会-水文システムの相互作用に着目した堤防の発達プロセスを解明しモデルを構築することで,将来の堤防発達プロセスを予測するものである.本研究では,A. 堤防空間データを含むデータベースを作成し堤防発達プロセスを解明・モデル構築・検証を行い,本モデルを将来の土地利用に適用することでB. 堤防発達プロセスの将来予測の可能性を検討した. 令和2年度は,「B. 堤防発達プロセスの将来予測の可能性を検討」を完了した.前年度において,作成した空間データベースをもとに各年代の堤防の新設箇所とその背後地の土地利用割合,人口分布の回帰分析を行うことで堤防新設と背後地の土地利用の間の関係性について分析した.その結果,堤防新設と背後地の土地利用の間の相関は,地域によって偏りがあり,特に駅や市街地に近い地域では市街化の影響の方が大きく堤防新設による土地開発促進の影響は小さいことが分かった.土地利用と堤防新設との間に明確な関係性を見出せないことから,比較的入手しやすい,堤防延長と人口,GDP,公共事業費といった社会経済変数を用いた回帰モデルを作成した.堤防延長はある程度人口によって説明が可能であり,将来人口によって堤防延長(必要量)は予測可能であると見られる.しかし,その空間分布を予測するためには堤防の影響以外の近隣の都市化や他のインフラ整備による土地利用の影響を統合的に評価する必要があり,且つ治水政策の方針にも大きく依存する.研究期間中である令和2年には流域治水という新たな治水政策が示された.本研究における日本の治水政策の分析結果では,この治水政策は戦後に次ぐ大きな転換に当たることから,今後はこの新たな治水政策を考慮した堤防発達プロセスの検討とモデルの改良が必要であると考えられる.
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