本年度は、2019年度に構築した、都市圏を対象とした立地均衡モデルの実証的な活用に向けた基礎的技術の開発に取り組んだ。まず、施設の現実の立地パターンに立地均衡モデルをフィットさせるように、モデル中のパラメータを推定する手法の開発を行った。この手法を上記モデルに適用することにより、2018年度に構築した理論的モデルの想定が現実に妥当するかどうかを、統計的に検証することが可能となる。さらに、モデルの現実への当てはまりを良くすることにより、道路整備などの事業の効果の予測能力を高めることができる。次に、交通インフラ整備による物流コスト削減の経済効果を分析する際の手段として広く利用されている応用一般均衡モデルにおける、適切な物流コストのモデル化や分析手法についての検討を行った。この成果は、都市圏よりも広域な地域を対象とした分析を行う際の基礎的な知見となり得る。 研究期間全体の成果は、以下のようにまとめられる。まず、小売企業の在庫管理戦略(在庫の発注タイミングやロットサイズ、在庫切れを防ぐための安全在庫の積み増し)を明示的に考慮した、理論的な立地モデルを定式化した。このモデルを分析することにより、都市内道路整備による物流の円滑化が、都市内物流センターやチェーン店の立地パターンを再編する効果と、消費者の買い物利便性を改善する効果を有することを示した。特に、物流の円滑化が、都市内の商店数の増加を通じて、消費者が居住地の近隣で買い物を行える環境の創出をもたらしていることを明らかにした点は、本研究の大きい独自性である。これにより、都市内道路整備がもたらすストック効果に関する、新しい知見を得ることができた。さらに、本研究は、前述の通り、都市圏を対象とした立地均衡モデルの実証的な活用に向けた基礎的技術の開発を行った。
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