研究課題/領域番号 |
18K13856
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
西山 正晃 山形大学, 農学部, 助教 (10802928)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | VRE / バンコマイシン耐性遺伝子 / 水平伝播 / 活性汚泥 / 東南アジア |
研究実績の概要 |
昨年度に実施した研究実績として、(1)東南アジア(日本、タイ、ベトナム)の水環境を対象としたバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の実態調査、(2)van耐性遺伝子の伝播実験に使用する受容菌の選定を行った。 (1)では、日本を含めた3カ国でVREの分布調査を実施した。タイと日本の試料は、2018年9月にバンコク市と山形県鶴岡市の下水処理場の活性汚泥反応槽から採取した。2018年12月には、ベトナムの未処理の生活排水を採取した。VREの計数はCHROM Agar社の選択培地を使用し、併せてVRE感受性菌の菌数を測定することで、VREの存在割合を推定した。3カ国の活性汚泥からVREが検出され、タイにおけるVREの存在割合はそれぞれと6.4%と6.8%であり、日本の場合と比較して高く検出された(5.0%)。最もVREの存在割合が高かったのはベトナム(18.9%と14.9%)であり、低かったのは日本であった。VREの検出割合に差がみられた原因は定かではないが,抗菌薬の使用履歴が関係あると推察している。 (2)では、VREからバンコマイシン耐性遺伝子が伝播する宿主領域の探査を実施するための受容菌の選定を実施した。耐性遺伝子を受け渡す供与菌は、実施項目(1)で単離したVRE株を用いるが、耐性遺伝子を受け入れる(受容菌)は如何なる薬剤耐性を有していない菌株が必要となる。そこで、日本の下水処理場の下水処理場から受容菌に用いる非耐性株の単離を試みた。試料は下水処理過程(流入下水、活性汚泥、2次処理水、放流水)から採水を行った。各試料について、選択培地を用いたメンブランフィルター法によって腸球菌を計数・単離を行い、薬剤感受性試験によって耐性の有無を判定した。用いた抗菌薬には、腸球菌感染症に使用される12種類の抗菌薬を用いた。その結果、これまでに下水処理過程に耐性を持たない腸球菌を単離している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に記載した実施事項から判断すると、研究計画書に記載した昨年度の実施事項は満たしているため、おおむね進捗していると考えている。 VREのモニタリングに関して、タイとベトナムでモニタリングを開始できたが、カンボジアでは同様の調査が実施できなかった。これはカンボジアの研究協力者が海外でPhDを取得するため、国内にいなかったためである。2019年5月末にカンボジアで調査を行う計画をしており、現地研究者の協力を得て定期的なサンプリングを開始する予定である。 van耐性遺伝子の伝播実験に関しては、耐性遺伝子を受け入れるために必要な受容菌を単離することができた。本年度は伝播実験に着手するために必要な菌株は揃っており、実験を進めていく次第である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に実施する研究タスクとして、(1)東南アジアの水環境を対象としたVREの実態調査の継続、(2)van耐性遺伝子の伝播実験、(3)VREの全ゲノムの取得である。 タスク(1)は、昨年から引き続き東南アジアを対象としてVREのモニタリング調査を継続する。計数後に単離した菌株について、VREの主要なvan耐性遺伝子(vanA、vanB、vanC1、vanC2/C3)の検出を実施する。耐性遺伝子が検出された菌株について、腸球菌種の同定と薬剤感受性試験を実施する。モニタリングは本年度まで実施し、各国のVREの分布状況を明らかにする。 タスク(2)は、NCTC(耐性菌標準株を保有するリソースセンター)から分譲した2つのVRE標準株に加え、各国で単離したVREを含めた伝播実験を実施する。始めに、耐性遺伝子の伝播の評価に一般的に用いられるFilter mating法とBroth mating法を実施する。次に環境条件を模擬したin vitro実験を実施する予定である。供与菌と受容菌の数を増やすと、両者の組み合わせが多くなり実験作業が膨大になると想定される。まずは供与菌には3株、受容菌には6株程度選定し、実施する。その際、腸球菌種での違いによる伝播率を比較することため、主要な腸球菌種であるEnterococcus faecalisとEnterococcus faeciumをターゲットとして実施する。料金種を受容菌と供与菌に含め、同一種間と異種間における伝播率の違いを評価する。 タスク(3)は、(1)のモニタリング結果から東南アジア諸国から分離されたVREの全ゲノム解析を実施する。試験に使用する菌株は、van耐性遺伝子の検出と薬剤感受性試験を実施後、腸球菌種の同定し、VREと同定された菌株を用いる。分離状況や予算にもよるが、各国から1-2株程度、計5株分析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた大きな要因として、旅費があげられる。これまでに海外でサンプリングを実施しているが、他の参画しているプロジェクトで渡航した際に併せて実施しているため、旅費にかかる費用が削減され、次年度使用額が生じたことが一番の要因である。次年度に繰り越した旅費は、サンプリングや現地研究者との打ち合わせへに使用することとしている。
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