研究課題/領域番号 |
18K13856
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
西山 正晃 山形大学, 農学部, 助教 (10802928)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | VRE / バンコマイシン耐性遺伝子 / 下水 / 活性汚泥 |
研究実績の概要 |
昨年度に実施した研究実績として、(1)日本とカンボジアの水環境を対象とした腸球菌の薬剤感受性評価、(2) タイの下水処理場を対象としたバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の実態調査,(3) van耐性遺伝子の伝播実験を実施した。 実施項目(1)では、日本とカンボジアの水環環境から採取した腸球菌の薬剤感受性を実施した。日本のサンプルには2018年1月から12月にかけて下水処理場から単離・保存していた729株を対象とした。カンボジアのサンプルは、2018年から2019年にかけて住民の飲料水源から単離した347株を対象とした。日本とカンボジアの単離株について薬剤感受性試験を実施した結果,バンコマイシンに耐性を示した菌株がそれぞれ0.27%と0.57%の割合で存在していた。昨年度までの結果と同様,日本におけるVREの割合は諸外国と比較して低い傾向であった。 実施項目(2)ではタイの2つの下水処理場を対象としてVREの調査を実施した。期間は2019年111月から2020年4月まで実施し,VREの計数にはCHROM Agar社の選択培地を用いた。タイの下水処理場の流入下水と活性汚泥の反応槽を対象にVREの実態を調査した結果,流入下水では0.1~1.2%の範囲でVREが検出された。活性汚泥からは0.5~4.5%で検出され,流入下水と比較して高い割合で検出される傾向であった。昨年度に実施した研究結果と比較しても,タイの下水からは高い割合でVREが存在していることがわかった。 実施項目(3)では,環境分離したVRE 株を含めたvan遺伝子の伝播実験を行った。はじめに臨床分野で耐性遺伝子の水平伝播を評価する際に使用するFilter mating法を実施し,その伝播率が10-7~10-8の範囲であることを確認した。今後は伝播する環境を変更し,各条件における伝播率を推定する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書の内容から3年計画の2年を終了しており,これまでの研究実績の実施内容から概ね研究は進捗していると考えている。これまでの実績として,東南アジア3カ国(タイ、ベトナム、カンボジア)と日本でモニタリングではVREを単離・保存できており,今後も継続してサンプルを採取,菌株の分離を進めていく次第である。各国の環境から分離した菌株についての薬剤感受性試験も実施しており,それらの抗菌薬に対する薬剤耐性の情報を取得している。また,主要なVREの遺伝子型の同定にも現在着手しており,各国のVREの分布状況が得られると考えている。 VREの伝播実験では,耐性遺伝子の伝播を評価する手法の1つであるFilter mating法を実施しており,環境分離株の耐性遺伝子の伝播率を推定している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの調査で日本とアジア各国から分離したVREに関して,遺伝学的な特徴づけをMLST解析によって実施する。MLST解析によって,アジア各国に分布しているVREの流行状況を得ることができると想定している。VRE株の中から1~3株の全ゲノム解析を実施して,環境由来株と臨床由来株との比較解析を実施する。伝播実験では,液相条件や環境条件に伝播する環境を変更し,各条件における伝播率を推定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では各国への渡航に関わる旅費を多く計上していたが,参画している様々なプロジェクトで東南アジアに渡航する機会が多くなり,周遊でのサンプリングや実験を実施したため旅費での使用額が少なくなった。また、今年度に実施する全ゲノム解析には多額の費用がかかると想定している。この2年間で各国からVREを分離できたが、実際にゲノム解析に委託するための菌株の選定に時間を要し,昨年度に実施する予定であった本解析を後ろ倒しにしたためである。これらのことが要因で次年度使用額が生じた。
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