本研究では,(1) 東南アジアと日本を対象としたバンコマイシン耐性腸球菌の実態調査,(2) in vitro伝達実験によるバンコマイシン耐性遺伝子の伝播率の評価を実施した。 (1)では,東南アジアのカンボジアとタイ,ならびに日本でVREの分布調査を実施した。カンボジアでは2018年から2019年にかけて住民の飲料水源から単離した347株の腸球菌から,VREが1株(0.27%)検出された。タイでは2019年11月から2020年4月にかけて2つの都市下水処理場を対象としたVREの調査を実施した。その結果,流入下水から0.1から1.2%でVREが検出された。日本では2019年2月から1年にわたって都市下水処理場の流入下水を対象として調査したところ、タイの流入下水と同程度のVREが検出された。調査を通じて単離したVRE株の遺伝子型別を行ったところ,臨床で問題となるvanAがタイと日本の流入下水からそれぞれ14%(139株中),0.5%(186株中)検出された。また,日本ではvanB保有のVREも1.6%検出された。このことは、タイの臨床におけるVREの分離報告が多い反面,日本での分離報告が極端に少ないことが,本研究での分析結果にも現れていた。また,日本の水環境からVREを分離した研究事例では初めてのことであった。このVanA型とVanB型のVRE株については全ゲノムの構造を解読した。 (2)では上記の日本とタイで分離したvanAを保有するVRE株についてvan耐性遺伝子の伝播実験をFilter mating法にて実施した。20株の伝達性を評価した結果,日本で分離したVanA型の菌株のみ伝播が確認され,その伝播率は10^-7から^-8の範囲であった。その反面,タイで分離した19株のVanA型VREは伝播が確認されなかったことから,伝播機構に差があると考えられた。
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