研究課題/領域番号 |
18K13857
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
端 昭彦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任助教 (70726306)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 腸管系ウイルス / 健康関連微生物 / 大腸菌 / 不活化率 / 水環境 |
研究実績の概要 |
水試料中のウイルス,細菌同時濃縮手法として,中空糸UF膜を用いた手法を検討した.検討に際しては,細菌,ウイルス回収率の観点からUF膜の前処理法及び洗浄液の組成について検討した.最適化の結果,いずれの微生物種についても65%以上を回収可能な手法を確立できたため,本手法を後述の河川水調査に用いた. 河川水調査においては国内の1河川を対象に,上流から下流までの6地点を選定し試料の収集・分析を試みた.収集した試料は先述の手法により濃縮し,大腸菌,Fファージ (指標ウイルス),腸管系ウイルスの測定に供した.各種微生物の測定に当たっては,培養法及び遺伝子増幅法 (PCR) のそれぞれで定量し,両者の比較により各微生物の不活化度合いを計測することを目指した.このほか,国内下水処理場の水試料について,腸管系ウイルスの培養法,PCR法による検出を試みた.いずれの調査も年間を通じて,おおむね月に1度程度の頻度となるよう行った. 大腸菌について,培養法による定量値とPCR法による定量値を比較した結果.測定対象とした24試料中23試料 (96%) で両手法による定量値の差は1 log10 (10倍) 未満であった.このことから,対象河川水における大腸菌は,地点,季節によらずほとんど不活化していないことが示唆された.今後はFファージや腸管系ウイルスについても同様の解析を進める予定である. 腸管系ウイルスについては,感染力ベースで考えた場合,どの種のウイルスが水中に高濃度で存在するか,といった知見がほとんど存在しない.そこで,下水試料の濃縮液を細胞培養に供し,その培養上清を次世代シーケンサーによる解析に供することで,水試料における感染力を保持したウイルスの存在状況を検討した.この結果,レオウイルスに類似の遺伝子が複数試料から検出された.今後はレオウイルスに焦点をあて,存在状況を調べていく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査のために必要な手法の確立に成功した.さらには環境試料を継続的に収集し,開発手法を用いた前処理,分析を進めていくことができた.また,開発した手法は,微生物の存在状況評価に加え,微生物の回収率評価 (手法の信頼性評価) も同時に可能とするものであり,今後広く用いられることが期待される.一方で,試料の分析に関しては不十分な点があり,今後は試料の収集を進めながら試料の分析も進めていくことが必要となる.
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今後の研究の推進方策 |
今後も月に1度程度の頻度で採水を継続し,同様のデータを集積していくとともに,腸管系ウイルスの遺伝子定量や,培養細胞での効率的なウイルス検出の可否の判断を進めていくことを予定している.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は本研究のためのウイルス濃縮資材として,opticap Xl2 (merck millipore) の購入・使用を予定していたが,より安価かつ高性能な代替品 APS 25 SA (Asahi Kasei) を採用することとしたため,計画よりも低コストで予定の研究を遂行することができた.今年度は,所属が富山県立大学へ移っているが,東京都内での河川水調査を継続する予定である.次年度使用額は富山から東京への旅費に充てることを予定している.
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