河川水試料,プール水試料の収集・分析を継続した. 特に河川水試料からのウイルス検出に際し,ウイルスの活性を問わない検出・定量手法であるRT-qPCR法適用時にRNA抽出効率が低下することがわかっており,この点の改善を試みた.RNA抽出操作の前処理として,界面活性剤を使用することでRNA抽出効率の改善を達成できた.これにより,RT-qPCR法による定量値の信頼性および,本定量値と感染力評価手法による定量値比較による,不活化率評価の信頼性も向上できたと考えられる.感染力評価手法として,Fファージについては既に確立したMPN-IC-RT-PCR法を適用したが,他の腸管系ウイルスについては,培養細胞を用いた手法は現実的でなく,代替としてCDDP-RT-qPCRによる手法を前年度より継続して用いた.特に夏季において,不活化率の推定値が大きくなる傾向が見られた.同様に,プール水においては塩素濃度の管理が行われている利用時に不活化率の推定値が大きかった.これらは水温や紫外光といった環境ストレスの大小,消毒剤がウイルスの不活化をもたらしていることを示唆する結果であり,特にこれらの影響が大きい水試料を対象に,RT-qPCR等の遺伝子定量技術に基づくリスク調査を行う場合には感染リスク過大評価されると言える.より実際の感染力に近い定量値を得るための手法としてCDDP-RT-qPCRも検討した.本法は細胞培養に依らず,多様なウイルス種を対象とできる簡便なものである.しかしながら,特にウイルスの不活化が進行している試料において,本法による定量値は実際の感染力を有したウイルス量を過大評価することを示唆する結果が得られた.特にウイルスの感染力や感染リスクを議論するにあたっては,CDDP-RT-qPCRによる定量値の取り扱いには注意が必要であると言える.
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