研究課題
本研究の目的は,未利用バイオマス資源である下水汚泥培地を用いて高付加価値(高アミノ酸含有,食味・香りを向上)きのこ栽培技術を開発することとし,「何故,下水汚泥を培地基材に用いることにより高アミノ酸含有きのこができるのか?」という問い(仮説)についてその形成機序を微生物学・分子生物学的観点から学術的に解明することにある。我々の研究グループでは,下水汚泥培地を用いた高付加価値食用きのこの栽培に成功しているが,その形成機序は不明であり仮説の段階である。本研究によりその形成機序を学術的に解明することで,科学的知見に基づいた高付加価値食用きのこ栽培技術の最適化・マニュアル化が可能となる。食用きのこを菌類-細菌の共生系という観点から研究した例はトリュフやマツタケに限られており,本研究はその共生系の新概念を提唱し,世界中で普及可能な下水汚泥の高付加価値バイオリサイクル技術を開発する。平成30年度は、下水汚泥堆肥を用いたマッシュルーム栽培培地中の微生物叢を培養・分子生物学的手法により解析することで,下水汚泥堆肥由来の微生物群が収量増にどのように関与しているかを生態学的に評価することを目的とした。また,培地内に優占する微生物群の分離株獲得に向けた培養法の検討を行った。培地中の微生物叢解析の結果,下水汚泥堆肥を30%利用した試験区でBacillales目に属する微生物群が培地の二次発酵後に45.7%と,牛糞堆肥を85%利用した試験区(従来法)の二次発酵後28.9%と比較して多く存在しており,存在割合の違いがマッシュルーム菌糸の成長に影響したと示唆された。培地中の優占微生物群の分離培養法を検討した結果,培地抽出液を基質に利用することで優占種の分離培養に成功した。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度は、研究実施計画に従い、食用きのこ栽培過程における菌床・子実体の環境ゲノム解析と異なる栽培条件で発生した (廃) 菌床およびきのこ子実体の成分分析、Fluorescence in situ hybridization (FISH) 法による共生微生物群の原位置での検出を行い、下水汚泥利用により優占する微生物や培地の特性を評価することが可能であった。また、FISH法による共生微生物群の検出では、未確定ではあるが、生理活性を維持している可能性のある微生物細胞を見つけている。このような理由から、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
次年度は、研究計画に従い下水汚泥で優占化する微生物の分離培養と代謝分析を実施すると共にマッシュルーム子実体に共生する可能性のある微生物の同定を行う予定である。
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