本研究の目的は、未利用バイオマス資源である下水汚泥培地を用いて高付加価値(高アミノ酸含有、食味・香りを向上)きのこ栽培技術を開発することとし、「何故、下水汚泥を培地基材に用いることにより高アミノ酸含有きのこができるのか?」という問い(仮説)についてその形成機序を微生物学・分子生物学的観点から学術的に解明することにある。我々の研究グループでは、下水汚泥培地を用いた高付加価値食用きのこの栽培に成功しているが、その形成機序は不明であり仮説の段階である。本研究によりその形成機序を学術的に解明することで、科学的知見に基づいた高付加価値食用きのこ栽培技術の最適化・マニュアル化が可能となる。 令和2年度は、令和元年度に下水汚泥堆肥を用いて栽培したマッシュルーム(Agaricus bisporus)子実体から単離した61株の細菌の16S rRNA遺伝子解析を行い、相同性97%以上を同一のOTUとして15種類の微生物種に分類した。その後、Sphingobacterium属,Microbacterium属,Pseudomonas属,Rhodococcus属,Agrobacterium属などに属する15種類のバクテリア及びその培養液(代謝産物)を用いてマッシュルーム菌糸との培養実験を行った。結果、菌糸と分離株の共培養より2種,分離株の培養液を添加した菌糸の培養より9種で菌糸のみの培養系(対照区)と比較して比増殖速度の増加を確認できた。以上のことから、マッシュルーム子実体に存在するバクテリアの一部はマッシュルーム菌糸の成長促進作用を持つことが示唆された。
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