研究課題/領域番号 |
18K13863
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研究機関 | 国立研究開発法人土木研究所 |
研究代表者 |
李 善太 国立研究開発法人土木研究所, 土木研究所(先端材料資源研究センター), 研究員 (60771962)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大腸菌ファージ / 次世代シーケンス / 網羅的検出 / 感染力 / 下水処理場 / 微生物汚染源 / F特異RNAファージ / 消毒処理 |
研究実績の概要 |
大腸菌ファージは、微生物汚染源追跡やヒト病原ウイルスの代替指標として最も注目されており、環境水や下水処理場に多く存在している。しかし、大腸菌ファージを対象とした網羅的検出手法が確立されていないことから、大腸菌ファージ種の存在実態については、ほとんど研究がなされていない状況である。そこで本研究では、①次世代シーケンサーを用いた感染力を有する大腸菌ファージ種の網羅的検出手法を開発し、②環境水および下水処理場における大腸菌ファージ種を用いた微生物汚染源の追跡を目指した。次世代シーケンサーを用いて生物種を検出する多くの研究では、感染力の有無を考慮していない。そこで、感染力の有無を区別する新たな前処理方法を提案し、検出手法を開発することを目的とした。この手法を用いて環境水へ流入する排出源に存在する大腸菌ファージ種を網羅的に検出することで、大腸菌ファージ種を用いた微生物汚染源追跡が可能になると考えられる。 本年度は、次世代シーケンサーを用いた感染力を有する大腸菌ファージ種の網羅的検出手法を開発するため、感染力の有無を区別する前処理方法を検討した。大腸菌ファージの中でもノロウイルス等のヒト病原ウイルスの代替指標として最も注目されているF特異RNAファージ(FRNAPH)を対象とした。試料中に存在する感染力を有するFRNAPH種を宿主菌であるWG49を用いた前培養により高濃度に培養させて、次世代シーケンス(NGS)を行う方法を試みた。また、同試料に対し、定量的タイピング手法(IC-PCR)を用いて感染力を有するFRNAPH遺伝子群の濃度を定量し、その結果と比較することでNGSの結果に感染力が反映されているかを検討した。試料としては、下水処理場の流入下水と活性汚泥処理後の二次処理水、また、その二次処理水を塩素と紫外線を用いてそれぞれ消毒した処理水(塩素処理水、紫外線処理水)を用いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおりに、宿主菌を用いた前培養後にNGSを行う前処理方法で、感染力を有するFRNAPH種を網羅的に検出することができた。流入下水、二次処理水、塩素および紫外線処理水の全ての試料において前培養後のNGSにより、FRNAPHのGI、GI-JS、GII、GIII、GIVに属する種がそれぞれ、8、2、9、7、4種類検出された。GI、GI-JS、GIII、GIVに属する種は流入下水で一番多く検出され、処理を施すことにより検出される種の数が減少した。一方、GIIに属する種は塩素と紫外線処理水で一番多くの種が検出された。NGSから得られたFRNAPH種のヒット数を遺伝子群別に整理し、IC-PCRにより定量される感染力を有するFRNAPH遺伝子群の濃度と比較した。NGSにより塩素と紫外線処理水で一番多く検出されていたGIIが、IC-PCRによる定量結果でも他の遺伝子群と比べてより高い濃度で検出されていた。また、流入下水と二次処理水においても両測定手法の検出結果で同様な傾向を示していた。この結果から、前培養後のNGSによるFRNAPH種の検出結果に感染力が反映されていることが確認できた。下水処理場の流入水や二次処理水においてどのようなFRNAPH種が存在しているか調査した研究は未だ皆無であり、本研究成果が初である。また、当初計画していなかった塩素と紫外線処理水を用いた検討を行い、NGSの結果に感染力が反映されているかを確認することができた。さらに、塩素や紫外線消毒後に多く検出され、塩素や紫外線消毒に対して強い耐性を持つ可能性が高いFRNAPH種も特定することができた。今後、このFRNAPH種を単離して消毒実験を行うことで、塩素や紫外線に対して強い耐性を有しているかをより確実に確認することができると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、開発した前培養後にNGSを行う手法を用いて様々な微生物の排出源に対し、感染力を有するFRNAPH種の存在実態を調査する。FRNAPHは、それぞれの遺伝子群によって人や家畜など由来が異なるとの報告がなされているが、種ではなく遺伝子群全体を汚染源追跡の対象としているため、正確な汚染源の特定につながっていないのが現状である。そこで、遺伝子群に属する種を網羅的に検出することで、より正確な由来を特定することができると考えられる。 環境水中に流入する家畜由来の排出源として牧場や養豚場の排水または動物の糞便を直接採取し、どのようなFRNAPH種が存在するのか調査する。また、人由来の排出源として下水処理場(畜産排水が混入しない都市)の流入水または直接人糞便の調査を行い、それぞれの排出源に存在する感染力を有したFRNAPH種の検出を行う。 さらに、もし可能であれば異なる分類の大腸菌ファージを対象としても検討を行う。大腸菌ファージは、大腸菌に感染する際の吸着部位により、F繊毛に吸着して感染するF特異ファージと、細胞表面上に吸着して感染する菌体表面吸着ファージに分けられ、それぞれ特定の宿主菌を用いて培養することができる。そのため、前処理で用いる宿主菌を変えて培養を行うことにより、感染力を有した菌体表面吸着ファージ種も網羅的に検出可能であると考えられる。さらに、大腸菌ファージのみならず前培養においてヒト病原ウイルスが感染可能な細胞を用いることで感染力を有するウイルスの検出も可能であると考えられる。もし、可能であればこれらの内容について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究課題の遂行に必要な予算執行をした上で次年度使用額が生じた。金額が微少であるため次年度予算と合わせて使用する計画である。
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