大腸菌ファージは、微生物汚染源追跡やヒト病原ウイルスの代替指標として最も注目されており、環境水や下水処理場に多く存在している。しかし、大腸菌ファージを対象とした網羅的検出手法が確立されていないことから、大腸菌ファージ種の存在実態については、ほとんど研究がなされていない状況である。そこで本研究では、次世代シーケンシング(Next Generation Sequencing; NGS)を用いた感染力を有する大腸菌ファージ種の網羅的検出手法を開発し、環境水および下水処理場における大腸菌ファージ種を用いた微生物汚染源の追跡を目指した。NGSを用いて生物種を検出する多くの研究では、感染力の有無を考慮していない。そこで、感染力の有無を区別する新たな前処理方法を提案し、検出手法を開発することを目的とした。この手法を用いて環境水へ流入する排出源に存在する大腸菌ファージ種を網羅的に検出することで、大腸菌ファージ種を用いた微生物汚染源追跡が可能になると考えられる。 本年度は、開発した前培養後にNGSを行う手法を用いて、動物由来の排出源として動物糞便および食肉加工工場(屠畜場)の浄化槽における感染力を有するFRNAPH種の存在実態を調査した。動物糞便試料における感染力を有したFRNAPH遺伝子群の検出結果では、ブタの糞便のみGIVが60%の陽性率で検出された。ブタの屠畜場排水では、GII以外の遺伝子群(GI、GIII、GIV)が全ての試料で検出された。ニワトリの屠畜場排水では、GIとGIIが50%、GIIIとGIVが100%の陽性率で検出された。GIVが検出されたブタの糞便試料における感染力を有するFRNAPH種を網羅的に検出した結果、GIVに属するFIがその他の種と比べてより多く検出された。従って、ブタの糞便中にはGIVに属するFIが感染力を有して存在している可能性が高いことが確認された。
|