本研究では、京都に現存する京町家と呼ばれる伝統木造住宅を地震時の倒壊から守るため、ロバスト性に優れた柱・梁接合部の耐震補強法の開発を目的とする。ロバスト性に優れた柱・梁接合部とは、住宅内の土壁などの耐力要素の配置に関わらず微小変形から大変形まで機能する接合部のことで、その条件は回転方向・軸方向について高い変形性能と適度な剛性を持つことである。 本年度は、前年度までに実施した柱-梁接合部が長ほぞ込栓接合である2層軸組架構の静的加力実験で生じた破壊性状を考慮して、接合部補強を施した2層軸組架構の静的水平加力実験を行った。試験体は、柱-梁接合部位置に柱繊維断裂防止用ステンレスプレートを設けた試験体と、FMS合金ダンパーを付加した試験体の2体である。静的水平加力には、本研究で開発した2層軸組架構の頂部・中間層に対して同時に水平荷重を加えることにより変位分布を制御できる加力システムを用いた。実験結果より、架構および接合部の挙動を把握するとともに、補強の有効性について分析した。さらに、差鴨居の引張・圧縮と曲げによる接合部挙動の評価を可能とする、実用的な2次元FEMモデルを考案し、良い精度で実験結果を模擬することを確認した。 そして、長ほぞ込栓接合の柱-梁接合部の引抜試験を実施した。試験体は、栓やほぞの樹種、ほぞの端あき長さ、柱長さ、柱の仕口切欠の有無を変化させた。また、地震後の対策を想定して加力後の試験体に対して栓を打ち直しての再加力、履歴特性の把握のための繰り返し加力、金物補強を施した試験体の加力もあわせて、計26体の試験体に対して加力実験を実施した。実験結果より、接合部仕様の違いによる破壊メカニズムや耐震性能の変化を把握するとともに、金物補強による補強効果を把握した。
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