研究課題/領域番号 |
18K13878
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 尚久 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任助教 (00755803)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 遮音 / 有限要素法 / 入射エネルギー分布 / 伝搬モード分解 |
研究実績の概要 |
初年度は研究の端緒として,有限要素法を用いて実験を模擬した数値解析を実施し,実験・分析方法に関する妥当性の検証を行った。室内における音波伝搬方向の抽出は,モード分解に基づいて行う。各モードの振幅を抽出する際には室内の音圧の多点計測の結果から最小二乗法により決定する。その際にモード展開を有限項で打ち切ったモデルから最小二乗係数を算出するが,この時の打ち切り次数に関して検討を行った。その結果,分析対象周波数に対して,モード格子を考えた際の最も低次の斜めモード程度大きい周波数以下で打ち切り次数を設定することで,十分な精度でモード振幅が同定できることが明らかになった。 また,モード分布は側壁が剛な場合の矩形室のものを想定することとなる。実際の音場では側壁の吸音性が無視できないため,この影響を数値解析により具体的に把握した。その結果,吸音性自体は大きな問題とはなりにくいが,位相回転による影響は比較的大きいことが明らかとなった。ただし,モーダルな挙動が重要と成る低周波数域では大きな問題とはならないため,実際の音場でも十分な精度が期待されることも明らかとなった。 モード分解の結果から,矩形室における界壁面への実際の音波入射エネルギー分布を算出し,特に低音域において大きく拡散音場仮定と異なることが明らかとなった。この点は拡散音場に基づくエネルギー論的な評価が実際の波動論的な挙動と異なることを直接的に意味する結果であり,本研究の大きな成果といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は当初より数値解析による計測手法の妥当性の検証を想定しており,分析方法がもつ特性や誤差要因については概ね明らかにすることができた。数値解析における界壁のモデル化において特に端部支持のモデル化が比較的難しいことが明らかとなり,遮音性能と絡めた検討は初歩的な段階に留まった。ただし,研究成果の一部は1編の査読付き論文と,学会発表論文として公開しており,概ね順調に計画を進行させている。
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今後の研究の推進方策 |
第二年度は前年度明らかになった数値解析上の問題を解決することで,より現実に即した問題設定による検証を進める。これについては大学院生1名の計算およびプログラミング補助を確保しておりスムーズに進行できる体制を整えている。さらに,当初の予定通り実測による検証を進める。ここでの一連の検討は,理論的実現可能性だけでなく,実用を想定した測定システム全体としての実装の課題抽出を試みるものである。
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次年度使用額が生じた理由 |
簡易な実験的検証用途として実験機材を導入する計画をしていたが,所属研究室の所有する機材で代替可能であることが明らかとなったため,次年度での材料費やセンサー類の購入費として使用する計画に変更を行った。
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