本研究では、火災中に散水設備が作動した場合における可燃物の燃焼性状の工学的評価手法の開発に向けた研究の一環として、火炎の影響を受ける水滴の飛散および蒸発の挙動モデル(本モデルと呼ぶ)を構築すると共に、本モデルの妥当性検証を目的とした実験を実施した。 ・本モデルでは散水設備から任意の角度で放出された水滴の力学的釣り合いおよび熱的釣り合いから水滴の蒸発および飛散性状をモデル化した。この過程で球の抗力係数の算定式として10<Re<10^5の範囲で当てはまりの良い近似式を導出した。 ・加熱を受ける水の基礎的な蒸発性状を確認するため、水平に設置したステンレス製の容器(100mm角)内に溜めた水を電熱ヒーターで放射加熱した。加熱強度をパラメータとして蒸発速度を実測した結果、水面での熱収支から推定した蒸発速度と実験値がほぼ一致することを確認した。 ・本モデルの妥当性を検証するため、散水ヘッド下方に設置した複数の枡のうち、散水ヘッド直下の枡に燃料を入れ、これを燃焼させることで火炎が存在する状況における散水密度分布を実測した。実験パラメータはヘッドの種類(噴霧角および水滴径、散水量)、火源と散水ヘッドの高さ、火源の大きさである。燃料を入れた枡における火炎無しの散水密度に対する散水有りの散水密度の割合(到達率と呼ぶ)を実験値から求めた結果、水滴径および散水量の少ない散水ヘッドは他のヘッドに比べ到達率が顕著に低く、また、火源径が大きく、散水高さが高いほど到達率が低くなる傾向にあり、本モデルでもこの傾向を概ね再現することを確認した。一方、火源の燃焼の有無における火源直下以外の散水密度分布の違いを本モデルで再現することができず、本モデルにおける水滴の飛散性状モデル等に改善が必要であることを確認した。
|