本研究では、日本及びインドネシアにおける世界遺産登録の事例をもとに、信仰に関わる文化的景観の領域性と保全の手法について、計画論的な視点から探求を行った。日本については、沖縄・斎場御嶽の領域性と観光政策のゾーニングの関係性を検証した。まず、世界遺産申請時のゾーニングが行われた背景について、これまでの文化財保存に関する行政文書、土地登記情報等を入手し、申請に従事した行政官へのヒアリングを行うことで、ゾーニングが必ずしも文化的要素だけではなく、当時の制度的・行政的な保護可能性を顧慮して行われたものであることを明らかにした。登録後に追跡調査・観光振興・開発計画等の展開の中で、追加指定を目指す領域、保存活用領域、周辺領域等、新たなゾーニングが形成されるプロセスと合わせて、信仰に関わる文化的景観をある特定の時期に領域性を持たせること、またこうした領域を観光開発に活用することの問題点を指摘した。インドネシアについては、文献調査によりバリ州における世界遺産登録の基盤となるヒンドゥー哲学「トリ・ヒタ・カラナ」が島外からもたらされた観念であり、保存対象となる水利システムを一体的に説明するために帰納的に用いられたこと、また緩衝地帯の境界が従来の集落=慣習村(バンジャール)の境界ではなく、慣習村の中を通る道路で線引きされていることを確認した。こうした実態を受けて、慣習村単位での信仰のあり方にアプローチを行い、現代の都市祭礼(ogho-ogho)の調査を元に、開発された地域においても慣習村単位で残る寺院(プラデサ、プラプセ、プラダラム)の場所性が重視されていることを確認し、世界遺産という視点で島全体を一意的に捉えて領域性を生起し、保存活用に向けた住民包摂や観光開発を進めることは、逆に伝統的な信仰に干渉しうる問題点を孕むことを指摘した。
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