本研究では、土地等級に着目し、条里地割分布地域における明治期の集落の空間特性を把握するとともに、農地所有の実態を明らかにし、集落空間の形成過程について考察を行った。対象地域は、滋賀県旧栗太郡葉山村と大宝村(現栗東市)と福井県越前市国高地区であり、それぞれにおいて、「出庭(宅屋)」と「北中小路」、「稲寄」と「瓜生」の地籍図と土地台帳の調査分析を行った。その結果、以下のことが明らかとなり、明治期の実態を把握することは集落空間の形成原理を解明する上で大いに意義があると考えられる。 1.滋賀の対象地域全体18集落は、等級区分と1反当たり収穫高により4つのグループに分類され、集落規模や地勢状況が関係していると推察された。 2.集落農地は居住域を中心にその周辺に高い等級の田が多く分布し、居住域から離れる程、低くなり、等級階層がほぼ同心円上に広がっている。等級をみることで空間特性の違いを把握でき、農地の階層的な構造を捉えることができる。 3.複数の居住域からなる「出庭」では、「本郷」に比べ「中」や「宅屋」の方が等級の低い農地が多く、開発が後から進んでいったことが理解できる。農地の等級分布の空間的な広がりから、農地整備や地域開発のプロセスを捉えることができる。 4.「稲寄」、「瓜生」においては、滋賀の場合より等級は細分化され、地域差がある。両集落とも水系の上流側、居住域に近いほど上位等級が多く、居住域から離れ流末になるほど下位が多い。この傾向は、下流側にある「瓜生」の方がより顕著である。 5.農地所有について、条里地割に基づく空間配置モデルを提案した。この空間モデルにより所有農地の分布や集中、分散度合をみることができ、所有パターンの把握に役立つ成果が得られた。「宅屋」や「瓜生」では、家屋敷と所有農地の位置関係が明確になっているものが多く、集落の成り立ちや農地整備の進展状況を反映していると推察される。
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