本研究は植物資源の循環利用が江戸時代から戦後頃まで各地域で行われていたという仮説に基づき、その仕組みを現存する伝統的な民家や土地利用図を資料として明らかにすることを目的とした。研究対象地は、飛騨、木曽地方と奄美大島である。調査は大きく分けて1)伝統的な民家の構法調査、2)調査地域の土地利用調査に分けられる。 2022度は最終年度である。コロナウイルスの収束が見えてきたため、現地調査を再開できた。また最終年度に予定していた、飛騨地方における調査報告書(種蔵集落の里山と民家)を刊行し、本研究の調査結果を現地に還元した。 飛騨地方では、飛騨市宮川村種蔵集落を事例として、江戸時代の史料より土地利用を明らかとし、明治21年の字絵図に基づき明治時代の土地利用を明らかとし、さらに2009年現在の土地利用を明らかとした。これに基づき、江戸時代、明治時代、2009年の土地利用の変容を明らかとし、里山では主要樹種がクリからスギへと変容したことを捉えた。これらの土地利用の変容と生業との関係、土地利用の変容と民家で使用される部材種の変容との相関を実証した。木曽地方では現地での構法調査及び文献調査より、江戸時代は停止木であったヒノキやサワラの内、明治以降ヒノキは地域外へ移出され、サワラは民家の材として多く利用されたことが明らかとなった。 奄美大島では、平野部、山間部、島嶼部の集落に分けて調査を実施した。明治時代の史料である竿次張に基づき、当時の土地利用を明らかとした。また特徴的なヒキムン構法民家に着目して、三地域それぞれのヒキムン構法民家を実測調査により明らかとし、地域ごとの差異を捉えた。さらにヒキムン構法の差異が生じる要因を当時の土地利用、生産組織、移築元と移築先により考察を加えた。 それぞれの調査対象地域の植物資源を捉え、そこで造られる民家の材や構法との関連について実証し新たな知見を得た。
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