研究課題/領域番号 |
18K13908
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
勝亦 達夫 信州大学, キャリア教育・サポートセンター, 助教(特定雇用) (60789709)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 養蚕 / 近代蚕室 / 蚕書 / 構成要素 / 仕組み / 技術伝播 |
研究実績の概要 |
明治期に出版された養蚕の技術指導書である蚕書を分析し、蚕室の建築方法と実際の遺構との比較検証、技術伝播と近代化の地域的諸相について調査を行った。 近代蚕室を構成する建築的要素は、清涼育・温暖育・折衷育の飼育方法によって違いがある。清涼育と温暖育の蚕室では「立地」「向き」「構造」「間取」「廊下」「建具」「欄間」「天井」「屋根」「火炉」「気抜き」の最大11の要素が必要とされた。 本年度の研究では、模範的な近代蚕室が建築された養蚕地域(長野県・山形県・群馬県・福島県)において、蚕書に記された建築技術や建築理論の影響を探った。既往研究で抽出した飼育方法ごとに必要とされる建築的要素をもとに、各地の中心的な養蚕教師によって書かれた蚕書の内容と近代蚕室遺構とを比較し、近代蚕室の建築技術の伝播における蚕書の影響を考察する。 上記の養蚕地域に建築された模範的な近代蚕室は、建築技術の伝播において重要な役割を果たしていた。模範的な蚕室では、生産拠点というよりも教育機関として養蚕技術の伝習や教育、人材育成が中心に行われていたと考えられる。伝習所で学んだ養蚕家や養蚕教師が、学んだ場所の蚕室モデルを参考にして各地で建築し、建築技術の伝播をしていたと考えられる。各地域には蚕書で推奨される要素を有する近代蚕室が残り、建築的要素が確認できる。一方で地域内では要素に共通点や相違点がみられ、技術伝播の年代ごとに差が生じていることが分かった。対象地域を比較し、地域的特性を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の第1段階(平成30年度)では、近代養蚕の先進地域の養蚕技術や蚕室の建築指導の影響を著者の功績や推奨する蚕書から明らかにし、図面資料から地域に現存する蚕室群や図面史料から蚕室の構成要素と仕組みとを比較することが目標であった。 各地を訪問し模範的な蚕室の把握ができた。同時に、地域に根差し功績を残した養蚕教師や実業家、研究者などの著者によって書かれた蚕書の把握を行い、多数の文献史料を発見できた。一方で想定以上に膨大な数の史料があり、これらを精査・読解する必要がある。 各地域を実測する中で、特にその痕跡が顕著であることや現存する調査対象の建築が多数残されている地域を絞り込むことができた成果は大きい。具体的には群馬県高崎市蓑郷地区に蚕室遺構を多数確認した。この調査においては、市役所の協力を得ることができ、今後の調査研究を推進する上で貴重な協力を得られた。上記のことから、概ね順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の調査研究を通じて、特に群馬県の高山社(藤岡市)では、養蚕実業家である高山長五郎が設立した養蚕伝習所の蚕室が現存しており、こちらも生産拠点ではなく教育機関として技術伝習が行われた。ここで学んだ養蚕家は、教師として全国に派遣されている。彼らによって蚕室の建築方法や技術が伝播した可能性が大きく、高崎市蓑郷地区には同型の気抜きの形式がみられた。特に気抜きは、飼育法や室内機構の仕組みと連動するため、その影響を大きく受ける部分であり、当地域ではよく確認できる。飼育法や建築技術の伝播が起こり農村景観を変えたのかは、蚕室の建築年と地域の蚕書の記述とを比較する。 群馬県立文書館において、養蚕伝習所である高山社に関する文献史料が2,000冊余り確認された。内、養蚕関係の古文書1641件、高山社関係の古文書・行政資料672件である。これらを対象に、地域に根差した養蚕教師等の蚕書の記述と年代を追うことで、技術普及がどのように起こったか、近代農村景観の変化の諸相が明らかにできると考えられる。各地域の中心的な養蚕教師によって書かれた蚕書や史料が多数保管されていることが確認されており、今後史料を精査していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺構の実測調査において実測用3Dレーザースキャナ・レンタルを計上していたが、新規のカメラとアプリケーションを用いることで、容易に高精度で実測できるツールが開発されており、これを導入したことでレンタル費用と人件費が軽減された。 一方で、多数の文献史料が発見されたことで、これらを精読する必要があり、次年度、調査補助の人件費・RA謝金に支出予定である。
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