研究課題/領域番号 |
18K13909
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小見山 陽介 京都大学, 工学研究科, 講師 (40815833)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | クリスタル・パレス / 構法史 |
研究実績の概要 |
・クリスタル・パレス建設時の同時代資料(図面、文献、絵画、版画)を収集した前年度までの研究成果を整理し、通常第一設計者として知られるジョセフ・パクストンだけでなくクリスタル・パレスの建設に一定の貢献を果たした共同者たちの人物相関図を作成した。 ・建築史上で神話化されたクリスタル・パレスにはそれと関連する設計者や施工者らによって同時代に建てられた類似建築が存在するが、今年度はそれら類似建築の中から特に、現存するV&A子ども博物館と部材の形状や接合部に着目した比較を行うことで、クリスタル・パレスに適用された技術を相対化した。 ・残された28枚の施工図面抜粋を読み込むことで、クリスタル・パレスの特徴的な部材である鋳鉄製大梁の3次元モデル化を行うとともに、部材断面形状の設計意図を数値解析によって構造的に探り、同時代の文献資料における記述に対して現代の構造的・構法的視点から検証を試みた。 ・「クリスタル・パレスはパクストンが設計した」と言い切ることはヒロイックなパクストンの虚像を生み出し、「クリスタル・パレスはパクストンが設計したのではない」と言い切ることは構法技術が自動的に建築を生み出したかのような誤解を生む。これらの二者択一ではなく、パクストンを含む「複数の設計者」が、「構法的・様式的な複数要素の価値判断に基づく意思決定」をしていった結果、クリスタル・パレスがつくられたことを示した。クリスタル・パレスは人の意思だけによってつくられたのでもなく、物の技術だけによって生まれたのでもない。互いに重なり合う建築構法史と建築様式史を統合した先に真の「建築史」記述があることを本研究で示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
想定した手順に従い研究作業を進め、学会発表や研究会報告、シンポジウム登壇のかたちで各段階の研究をまとめることができた。また、他の構法史研究者とも活発な議論を交わすことで、より大きな研究テーマへと発展させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までは建築詳細図面の分析を主とした研究を行ったが、今後は図面にも描かれなかった構法・生産的側面をさらに詳しく見ていくことで、パクストンら設計者がどのような状況下でいかなる創作意思を発揮したのかをさらに明らかにする。そのために、部材の3Dモデル化や構造的・構法的な検証を引き続き進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究期間の最終年度に新たな研究協力者を得て、補助事業の目的をより精緻に達成するための研究計画を立案したところ、当初計画を超えた進展があった。その成果を2020年度に論文投稿し、学会にて発表予定である。その追加検討と、投稿・学会参加ための経費を2020年度に残すべく、研究期間の延長を申請した。
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