研究課題/領域番号 |
18K13911
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡北 一孝 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(PD) (00781080)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | サン・ピエトロ聖堂 / ルネサンス / 保存 / 修復 / 再利用 / スポリア |
研究実績の概要 |
4月17日-5月12日、7月22日-8月17日、3月9日-16日の間にイタリアで在外研究を行なった。4月20日にはローマ大学(トル・ヴェルガータ)での研究発表を行い、その後は、23日にアッカデミア・サン・ルカでのルネサンス建築史シンポジウム「Materia, Struttura e Filologia. Nuovi contributi sull’architettura del Rinascimento. Giornata di studi in onore di Pier Nicola Pagliara」に参加し、フランチェスコ・パオロ・ディ・テオドロ氏などとディスカッションを行なった。 在外研究中は、サン・ピエトロ聖堂の現地調査と、ローマ市内の文書館・図書館(ヴァティカン図書館、ヘルツィアーナ図書館、フランス学士院付属図書館など)で資料調査を行なった。主に、ニコラウス五世による再建計画を批判し、新聖堂が継承すべき旧聖堂ついて語った『記憶に残すべきローマの古代のサン・ピエトロ聖堂について』(マッフェオ・ヴェジオ、1455年頃)、および、サン・ピエトロ聖堂で奉職していたティベリオ・アルファラノがあるべきサン・ピエトロ聖堂の姿を図面とテクストで示した『いとも古きサン・ピエトロ聖堂と新たなる建築』(1582年)を分析した。これらのテクストはどれも旧聖堂の保存と、新たに計画されている新聖堂が持つべき象徴性や昨日について論じたものであり、これまで盛んに取り上げられてきた建築家の素描や図面だけでは描き出せないサン・ピエトロ聖堂の姿がある。このテクスト分析に関しては、2019年度中には論文等で成果としてまとめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度はローマに滞在し、研究に必要な資料を揃え、サン・ピエトロ聖堂の15世紀から17世紀における建設過程の詳細を整理する期間として計画していた。その目的はほぼ達成することができた。例えば、ニコラウス五世が主導し、アルベルティが関わったサン・ピエトロ聖堂の再建計画は、再建復元案が多く制作されてきたが、これまで見過ごされてきたマッフェオ・ヴェジオのテクストと組み合わせることで、旧聖堂の保存の実際を明らかにできるはずである。また、旧聖堂の身廊を取り壊し、新しくファサードを設計したカルロ・マデルナの計画案は、アルファラノのテクストに大きく影響を受けており、マデルノもまた旧聖堂の保存と継承に大きな関心を持っていたと考えられる。 初期近代の新サン・ピエトロ聖堂造営に関して盛んに論じられてきたのは、建築家たちの独創性と創造性であった。しかしながら、長きに渡るさん・ピエトロ聖堂の建設過程を見てみると、過去の建築を継承しつつ新たに建築を創造する上で,古典古代文化とキリスト教的観念のすり合わせがどう行われたのかが明らかになる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、近年になって注目されつつある、新聖堂建設における旧聖堂の継承と保存の問題のさらなる解明を目指す。また今後も研究協力者である4名の研究者に適宜協力を仰ぎながら進めていきたい。初期近代ローマの建築保存に関する研究では古代遺跡を対象とすることが多く、教会堂に代表される「生きた」古代建築が扱われてこなかった。サン・ピエトロ聖堂のような由緒正しき古代末期の建造物を継承しつつ大規模に再建した過程の考察が、初期近代ローマの建築保存概念の十全な理解につながるはずである。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ計画通り使用することができたが、必要経費を使用したのちに少額(199円)のみ未使用金が残った。この分についてはは2019年度に繰り越して、効果的に用いていく。
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